ゲーム
定期を、改札機にかざす。
簡易な扉は開き、私達のみちをあけてくれる。
最近の電車は便利になったものだ、と感心。
最寄り駅の西口を出ると、そこはスーツを着た男女が行き交う街。
携帯をいじりながら道を歩き、車に轢かれそうになる男性。
誰かが自動販売機に落とした小銭を、一生懸命拾おうとする老人。
母親を見失い、必死にぬくもりを探し続けている子供。
誰もがそれぞれ“こころ”がある、自分の“人生”を持っている。
もちろん、私はそのいのちに干渉するつもりはない。
街をすこし歩くと、だんだん高層ビルはなくなっていき、住宅街になっていく。
もう夜遅いので、外に出歩いているのは、私くらいだ。
その住宅街をさらに行き、突き当たりを右に曲がると、急な坂が見える。
その上には原っぱしかなく、普段は子供が遊び目的でしか近づかない。
そんな原っぱに向かうべく、私は坂を上る。
コツコツと、ヒールがコンクリートの道を叩きつける。
ただ、道路は変わらずその道を示す。
それが、自分の唯一の定めだからだ。
坂を登り切ると、雑草だけが生えた野原につく。
急斜面をある程度上ったので、ビル街や住宅街よりは少し高い。
だから、そのあたりを一面に広げることができる。
ただ、大きいだけのビルはその明かりを失い
住宅街の家々はすでに眠りについている。
もう、だれも私の存在などに気づかない。
私は雑草だらけの地に寝転がる。
草が首をちくちくと、攻撃してくる。
ただその代わり、背に柔らかい感触を与えてくれる。
私はこの柔らかさが好きだった。
いっそ、死んでしまおうか。と、ふいに思いつく。
誰も居ない、誰も来ない、誰も知らないこの場所で。
一人寂しく、雑草に埋もれて。
私はさきほど、ある罪を犯した。
決して法にかかることはないが、母親として残虐な行為をした。
そんな私が、のうのうとこの草地に身を預けていて良いのか、と。
私には“こころ”があるのだろうか?
あるのならば、何故子を棄てるという暴挙にでたのか。
わからない。自分でもわからない。
ただ、わかっているのは、あの子が私の温もりを探し今も彷徨っているということだ。
あの子には“こころ”があるはずなのに。
私はあの子の“こころ”を摘み取った。汚濁なるこの手で。
あの子が一人で自宅に帰れたら、あの子の勝ち。
帰れずに、一人寂しく私を求めていたら、私の勝ち。
そう、これはゲーム。
決して、愉楽ではないゲーム。
嗚呼、お月様。
貴方はどちらに軍配を上げるのでしょう?
月「しらねーよ」(←