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メインディッシュ[1]

『夫が殺された』


 この事実は、あまり私を驚かせてはくれなかった。家族は私の肩を抱いて「かわいそうに」と連呼している。友人はまるで自分のことかのように泣きじゃくっている。(そこまで泣かれたら、私だって悲しめないだろうに)



 葬式でも、たくさんの人に「お悔やみ申し上げます」と言われた。こう、いろんな人にいわれると、改めてあのひとはいろんな人に愛されていたんだと実感した。



しかし、先述の通り。私はこの事実に驚いていない。というよりか、『驚けない』のだ。




なぜならその事実を作ったのは私だからだ。




 少し、夫との出会いを話してもいいだろうか。三年前・・・つまりは二十歳の時だが、私はシンガーソングライターをめざし、毎晩七時くらいに最寄り駅近くにあるベンチに腰掛け、ギターを弾き語りして・・・いわゆる『路上ライブ』を行っていた(今となっては恥ずかしい思い出なのだが)。



 もちろん、私の歌に耳を傾けて止まってくれる人などいなかった。皆、暖かい家庭があるからだろう。私には当時『家庭』などというものはなかった。だからこそこうして歌っていたのだが。両親は離婚し、すぐにどちらも他界し、私は親戚の家をたらい回し・・・もう自分の苗字が何回かわったことやら。


 ところが、寒い冬のある日、私がいつもどおり七時から歌い始めると、私の歌を立ち止まって聞いてくれている青年が居た。私が歌い終わると「お上手ですね」と、一人で拍手までしてくれた。



 言わずもがな、それが今の夫だ。




 それから青年は毎日私の歌を聴きに来てくれて、時には歌い終わると一緒に長話をしてしまったり。電話番号を交換した夜には、私の家族についての相談を受けてくれたり。お互い会社が休みの日には一緒に出かけて、買い物をしたり・・・



いつからだっただろうか。私たちの間柄は『恋人』と呼ばれるものになっていった。




 彼という守るべき物(または守られる自分)が出来てから、私は現実を見つめ直すようになり、歌手の夢はあきらめ、仕事を一生懸命するようになった。

 そのとき彼は「亜紀帆あきほの歌声が聞きたいな」と、そのことに反対したが、二人が同居するという話が出来てからは、勢力もだんだん弱まっていった。



 彼と同棲して数ヶ月、私に子供が出来た。彼はとても喜んでくれた。「仕事も今の倍以上働いて、亜紀帆と子供を幸せにするから、籍を入れない?」と、プロポーズまでされた。

 思えば、その頃が一番幸せだったのかもしれない。と、今実感する。



 さて、『彼』が『夫』となって2ヶ月。お腹もだんだん膨らんできた頃。彼に頼まれて壁に掛かってあるコートからライターを取り出すため、ポケットの中を手探りしていたら、ある伝票が出てきた。

 そこには桁違いな数字が書かれていて、商品名には「perfume」と書かれていた。

 そのときは、何にも思わなかったのだが、一週間後、夫が近くのコンビニに買い物に行っている際、何気なく着信がした夫の携帯を覗いたら、私がしらない女性から、メールが来ていた。

 それは、妙にデコレーションが凝っているメールで「この前は香水のプレゼントありがとでした(*^▽^*)また何かあったらいつでもどぉぞ♪」という内容だった。




 ああ、そうか。これが不倫なのか。と、私は感じたことのない虚無感を感じてしまった。


 夫がコンビニから帰ってきたので、私はメールを開かずに画面を待ち受けに戻し、夫がこちらに来ないうちに携帯を閉じた。

 夫は、頼んでもいないのに私のために身体にやさしい食品を買ってきてくれていた。優しいのに憎い人。




・・・・・・やはり、不倫が理由で夫を殺してしまっては、いけないのだろうか?

いままで信じ、愛し、子まで授かった存在なのに、この裏切られ方はどうなのだろうか?



 私にとっては、その時点でそのおとこは「イキルカチナシ」なのだが・・・・・・

そして、その翌日・・・つまりは昨日だが。夫を殺害した。・・・急すぎるだろうか


 夕食を作っているとき、背後に近寄り「ねぇ、主食メインディッシュの味付けがあと一つ足りないんだけど、くれない?」と話しかけ、彼が「なに?」と振り向いたところを、「あなたのことよ」と囁きながら心臓近くを刺した。なかなかスリリングで良いだろう?

 彼も、誰に殺されたかもわからず死ぬのはかわいそうだから、ある意味幸せな死に方だったのではないだろうか。


 いずれにせよ、主食の味付けはあっけなく死んでいった。

なんか長くなりそうなので区切りました。

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