ごっこ遊びでは済まなくて
なんでもあり。
「おまえとはこんやくはきだ!」
王子の舌足らずな元気な宣言に、その場にいた大人たちが全員息を呑んだ。
「まあ、どうしてでしょうか。どうしてそんなひどいことをおっしゃるのですか!」
王子の婚約者の令嬢も、同じく芝居がかった声で、無邪気に返していく。
それに反して、大人たちの顔色がなくなっていく。
「きみとぼくは、うんめいじゃなかったんだ!ぼくは『うんめいのあいて』をみつけたんだ!」
「まあっ、わたくしとこんやくしているのに、ほかのおんなですかっ!」
「そうだ、きみよりもとってもすてきなじょせいなのだ!」
「ひどいですわぁ…!」
わーんと泣き真似しながら、小さき令嬢は顔を伏せた。
王子はふふんと踏ん反り返ったあと、だんまりした。
にんまりした顔をしながら、婚約者の令嬢が顔を上げるのを待っている。
そして、彼女がおそるおそる顔を上げて、目が合うと、二人は楽しそうに笑い出したのだった。
「でんか、おじょうずでしたわ!すごかったです!」
「きみもかんぺきだったよ!」
二人の幼児たちをよそに、大人たちの顔は青いまま。
「え、…〜っと、殿下、公爵令嬢殿、今のはなんでございましょうか…?」
冷や汗をかきながら、近くにいた執事が話を聞くと、幼き二人は満足げに笑った。
「このまえ、おうじょうのにわでこうやって話している大人たちがいたんだ!」
「そうなんです。ほんとうはあともう一人、おんなの人がいたんですけど」
「おしばいのようで、すごかったんだ!」
「まるで絵本の中の人たちみたいでしたわっ!」
「ぼくたち感動したから、あの日からずっと二人でマネしているんだ!」
「わたくしたち、じょうずになりましたのよっ!」
えっへんと自慢げな幼い二人は可愛いが…。
分別のできるお年頃でもない二人が、そんなことを覚えてしまったもので、一部の大人は泡を吹いて倒れそうになり、また別の大人たちは血の気が引いた。
「左様でしたか…。その人物はどなただったかおわかりになったりしますでしょうか?」
「んん〜?下のお兄様がいたぞ?あと、白い服のおんなの人だよな?」
「はい、あんまり見たことない形のドレスでした。ひらひら?マントみたいなものを着てました」
「ま、まさか第二王子殿下と聖女様…」
ああ、もういっそ全部夢であってくれと、その場を逃げ出したくなった使用人たちがどれほどいたことか…。
胃が痛くて吐きそうになりながらも、しっかりと使用人の顔を崩さない彼らは、王子とその婚約者の身の回りにいる相応しい使用人だと言えよう。
「そうでしたか、教えていただきましてありがとうございました。至急確認してまいりますので、この場を離れることをお許しくださいませ」
「うん、ゆるすぞ!」
「ありがとうございます」
「それから、殿下、公爵令嬢様。そちらのお芝居よりも、素敵なものがございますので、今度こちらでご用意させていただきますね」
「またあんなにすごいものが見られるのかっ?」
「ええ、今度は私どもが全力でご用意させていただきますので、きっと楽しんでいただけると思いますよ」
「まあっ、たのしみですわ!」
そう言って、二人は定期的な交流の場である、お勉強も兼ねたお茶会に戻っていったのだった。
それから、大人たちが駆けずり回ったのは、言うまでもなく…。
後日、第二王子と聖女には重い処分が下ったなど、幼い二人にはよくわからなかったし、二人のおかげでことの重大さに気づいたなど、また大きくなるまで知ることもなかったりする。
ちなみに、幼き二人の真似っこブームは移ろい、今ではすっかり「きみのことをこの世でいちばんあいしてる!」「わたくしもよ!」にすげかわった。
第二王子という馬鹿な弟の尻拭いと幼い弟への教育という名目で、第一王子が自ら婚約者に向かってそのように告げる姿を見せたなど涙ぐましい姿に、使用人は、「第一王子についていこう、そして第二王子の穴埋め役となるこの幼き第三王子をお支えしよう」と強く思うのだった。
了
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252日目。




