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第1章

 恋が終わった翌日に、インターネットで調べたのは『傷を消す薬』。

 自分で何かをはっきり意識しての行為ではなかった。

 ただ、調べているうちにあるページに辿り着いた。それは、リストカットの痕を消す方法に対する書き込みのページ。

 リストカットの痕は自分への戒めとして消すことは全く考えていなかった。もう二度とリストカットをしないことへの決意として一生この傷を背負って生きていく覚悟でいた私にとっては、刺激的なページだった。


 自分の傷痕なんて、あまり目立たないものだが、よく見ればそのての傷痕だとはっきりわかるものだった。

 見せびらかすものではなかったから、左手首を見られないように生活するのは日常的なごく当たり前の仕草。友達にも話していないし、恋人なんていたことがないから、誰にも話したことが無い。もちろん、家族にも話していない。ただ、もしかしたら同じ家で暮らしているから家族は何か知っているかもしれない。けれど、一度も私の傷痕に触れるような会話はしたことが無い。

 傷痕の痛みや赤みが消えてからは、見られないように気をつけることはあったが、その傷痕をどうこうしようと考えたことも無かった。傷痕が重荷に感じるようになったのは、見合をするようになってからだ。

 見合の相手にいつ話すべきなのか、いつも悩んでしまう。付き合い始める前に言っておくべきことだとは思うが、家族にすら話せないことを、会ったばかりの他人に言い出せるわけがない。だったらと、付き合っていくうちに親密になってきたらと思っているが、親密になる前に別れてしまう。前回の失敗があるから、セックスする前にはきちんと話そうと心に決めている。

 でも、傷痕を消してしまえばと考えるようになった。無かったことに出来るなら、自分の過去を話さなくてもいいのではないかと姑息なことを考えた。


 それから、形成外科がある病院を探し、何処の病院に通うかを選んだ。でも、あと一歩が踏み出せなくて電話をかけるのに一週間悩んだ。

 決心がつき電話をかけて、傷痕を治す治療をしているかと尋ねると、大丈夫だと答えられた。その勢いで、翌日に病院の予約をしてしまった。翌日でもなければ、あれこれ悩んでしまいそうで嫌だったのだ。

 行くしかない状況に自分を追い込んだ。

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