第4話: 街道の商人と、噂の拡散
森を抜け、俺とリナは街道に出た。
石畳の道が続き、馬車がガタゴトと行き交う。
商人たちが荷物を積み、旅人たちが杖をついて歩く。
空は晴れ、風が心地よく鱗を撫でる。
……久しぶりに、普通の道だ。
リナは俺の背に乗り、杖を振って道を確かめる。
「ねぇ、おれさん……冒険者ギルドの本部って、どのくらい遠い?」
「……(ゴロゴロ)」
俺は尻尾で地面に**【3日】**と書く。
リナが指で触って、くすっと笑う。
「3日か。長いね。でも、一緒なら楽しいよ。」
……楽しい、か。
人間だった頃、会社帰りにコンビニで弁当買うのが唯一の楽しみだった。
今は目隠しの少女とバジリスクの旅。
……人生、何があるかわからんな。
だが、平和はすぐに終わる。
街道の向こうから、馬車を引いた商人の一団が近づく。
リーダーは太った男で、帽子に羽根を挿している。
「ほほう! あれは……バジリスク!?」
「しかも、少女を乗せてる!?」
商人たちは馬車を止め、俺を囲む。
「伝説の怪物が、ペットみたいに!」
「こりゃ大儲けだ! 見世物にできる!」
……見世物!?
俺はサーカスじゃねぇ!
リナが叫ぶ。
「違うの! おれさんは危険じゃないよ!」
「石化もしないし、優しいの!」
商人のリーダーは笑う。
「ガキの戯言だ。バジリスクは金になる!」
「網で捕まえろ! ギルドに売れば大金だ!」
網が投げられ、俺の体に絡まる。
くそ、重い!
俺は視線を制御し、網の端に集中。
カサッ。
網の端だけが灰色に固まる。
「ほら! 石化した!」
「やっぱり危険だ!」
「捕まえろ!」
……待て待て! それ端だけだよ!?
リナが網を引っ張り、叫ぶ。
「やめて! おれさんは網しか固めてない!」
「みんな、よく見て!」
商人たちは一瞬、動きを止める。
「……網の端?」
「確かに、人間じゃない……」
「でも、金になれば——」
俺は網を振り払い、リナを背に乗せたまま後退する。
戦わない。
ただ、誤解を解く。
尻尾で地面に文字を書く。
【俺 無害 見世物 じゃない】
リナが読み上げる。
「『おれ むがい みせもの じゃない』……!」
「ほら、おれさん、自分で言ってるよ!」
商人たちは顔を見合わせる。
「……文字を書くバジリスク?」
「そんな話、聞いたことねぇぞ。」
「でも、噂になれば——」
その時——
「待て待て! ギルドの最新情報だ!」
通りすがりの旅人が、手紙を振りながら叫ぶ。
「バジリスクは石化をコントロールしてるらしい! 無害の可能性あり!」
商人たちはざわつく。
「……マジか。」
「じゃあ、見世物にならねぇ?」
「くそ、損したぜ。」
リナはホッと息をつき、俺の鱗を撫でる。
「よかった……おれさん。」
……少し、進展したな。
でも、まだみんなの目は疑いの色。
噂が広がる前に、ギルドに着かなきゃ。
商人たちは馬車を再び動かし、去っていく。
だが、リーダーが振り返り、ニヤリと笑う。
「まぁいい。噂を広めてやるよ。」
「『石化しないバジリスクと目隠しの少女』……こりゃ面白い話だ!」
……おい、待て。
それ、拡散されるパターンじゃねぇか!?
街道を進むと、噂はどんどん広がる。
「聞いたか? バジリスクが少女を連れて旅してるって!」
「石化しないらしいぞ!」
「でも、見た目が怖いから危険かも!」
……誤解が、変な方向に加速してる。
夜が訪れ、俺たちは街道の脇で休む。
星空が広がり、リナが俺の鱗に寄り添う。
「おれさん……みんな、わかってくれるよね?」
……わかってほしいな。
でも、噂が広がるってことは、チャンスでもある。
俺は尻尾で地面に文字を書く。
【ギルド 急ぐ】
リナが笑う。
「うん! 一緒に、証明しよう!」
——こうして、
噂と誤解が広がる旅は、続いていく。
(つづく)




