第3話: 冒険者の影と、リナの決意
森の奥で息を潜め、俺はリナを背に乗せたまま周囲を窺う。
木々が密集し、葉ずれの音が響く。夕陽が沈み、影が長く伸びる。
村人たちの声が遠ざかり、ようやく一息つけた。
金貨500枚の討伐依頼……マジでヤバい。
リナは俺の鱗に頰を寄せ、小さく呟く。
「みんな、勘違いしてるね……」
「おれさん、優しいのに。」
……優しいって、褒められると照れるな。
人間だった頃、会社で「普通の奴」って言われてただけなのに。
今はバジリスクだけど、リナのおかげで少し希望が見えてきた。
だが、平和は長く続かない。
森の入り口から、馬の蹄音が響く。
「ギルドの依頼だ! バジリスクの居場所はここか!」
「報酬は金貨500枚! 俺たちの手柄だぜ!」
冒険者たちの声。
革鎧を着た剣士、弓使い、魔法使いの一団が、松明を掲げて近づく。
リーダーらしき剣士は、傷だらけの顔で俺を睨む。
「見つけたぞ! 伝説の怪物!」
「目を見るな! 石化の呪いに備えろ!」
彼らは隊列を組み、俺を囲む。
……またかよ。俺、もう石化しないのに。
「待って! おれさんは危険じゃないの!」
リナが叫ぶが、冒険者たちは笑う。
「ガキが何を言う。怪物に洗脳されてるんだろ!」
「リナちゃんを救え! 奴を討伐だ!」
俺はリナを背から降ろし、体を低くする。
戦わない。
ただ、誤解を解く。
尻尾で地面に文字を書く。
【俺 石化 しない 信じて】
リナが指で触って、読み上げる。
「『おれ せきか しない しんじて』……!」
「ほら、みんな! おれさん、自分で証明してるよ!」
冒険者たちは顔を見合わせる。
「……文字を書いてる?」
「バジリスクが? そんな話、聞いたことねぇぞ。」
「でも、伝説では——」
チャンスだ。
俺は視線を完全に制御し、何も固めない。
ただ、じっと耐える。
俺は危険じゃない。
だが、リーダーの剣士が剣を抜く。
「油断するな! これは罠だ!」
「魔法で封じろ!」
魔法使いが杖を構え、青い光が集まる。
……くそ、聞く耳持たねぇ。
俺はリナを庇うように体を丸め、視線を弱く調整。
近くの木の葉に集中。
サラッ。
葉が一枚だけ、灰色に固まる。
「ほら! 石化した!」
「やっぱり危険だ!」
「攻撃だ!」
……待て待て! それ葉っぱだよ!?
剣が振り下ろされ、俺の鱗をかすめる。
痛っ!
血がにじむが、我慢。
リナが叫ぶ。
「やめて! おれさんは葉っぱしか固めてない!」
「みんな、よく見て!」
冒険者たちは一瞬、動きを止める。
「……葉っぱ?」
「確かに、人間じゃねぇ……」
「でも、報酬が——」
リナは杖を地面に突き、声を張り上げる。
「みんな、伝説に騙されてるの!」
「おれさんは石化をコントロールできるよ。危険じゃない証明、させてあげる!」
……リナ、お前……本気か?
リナは俺の鱗に触れ、囁く。
「おれさん、協力して。みんなの前で、何も固めないで。」
「……(ゴロゴロ)」
……わかった。やってやる。
俺は体を起こし、冒険者たちの前に出る。
視線を逸らし、完全に力を抑える。
剣士が試しに剣を近づける。
「……動かない?」
「石化しない……?」
リナが笑う。
「ほら! おれさん、無害だって!」
「みんな、信じてあげて!」
冒険者たちはざわつく。
「……本当に?」
「でも、見た目が怪物だし……」
「報酬はどうするんだよ……」
その時——
「待て! ギルドの追加情報だ!」
後ろから走ってきたメッセンジャーが、手紙を差し出す。
「バジリスクは、最近石化をしないらしい! 誤解の可能性あり、討伐保留!」
村人たちも森から駆けつける。
「ギルドから連絡が!」
「リナちゃんの言う通りかも……」
冒険者たちは剣を下ろす。
「……マジか。」
「じゃあ、報酬なし?」
「くそ、損したぜ。」
リナはホッと息をつき、俺の鱗を撫でる。
「よかった……おれさん。」
……少し、進展したな。
でも、まだみんなの目は疑いの色。
誤解を完全に解くには、時間がかかる。
夜が訪れ、森は静かになる。
俺はリナを背に乗せ、村の外へ向かう。
冒険者ギルドの本部へ。
そこで、俺の無害を証明する。
リナが呟く。
「おれさん、一緒に旅しよう。」
「みんなに、教えてあげるよ。おれさんがいい人だって。」
……いい人、か。
蛇だけどな。
——こうして、
勘違いだらけの旅は、続いていく。
(つづく)




