無限図書館・第3話 本から抜け出した妖精
無限図書館・第3話 本から抜け出した妖精
静まり返った書架の間で、ふと一冊の童話本がぱらりと開いた。ページの隙間から光がこぼれ、そこから小さな羽音とともに妖精が飛び出す。
「やっと抜け出せた!」
金色の髪を揺らしながら、妖精は両手を腰に当てて叫んだ。
「私、いつも脇役ばかりなのよ。森で迷子を助けたり、花びらを運んだり……地味すぎる!」
その声に応えるように、ゆったりと足音が響く。姿を現したのは女性の館長だった。長いローブをまとい、柔らかな眼差しで妖精を見つめる。
「では、どんな役になりたいの?」
「決まってる! 戦うヒーローがいい!」
妖精が叫んだ瞬間、近くにあった戦争の本がぶわっと開き、強烈な光に二人を飲み込んだ。
◆
気がつくと、そこは戦場だった。煙が立ち込め、叫び声と剣戟の音があたりに響き渡る。
妖精は手にした剣を振り回し、「見てよ! 私だって戦える!」と胸を張った。
しかしすぐに、彼女の目に飛び込んできたのは、倒れていく兵士たちの姿。焦げた匂い、涙に濡れた叫び。
妖精の顔から血の気が引いた。
「これが……戦うってことなの?」
震える声に、女性館長がそっと答える。
「戦いは栄光じゃない。多くを失う痛みのほうが大きいの」
妖精は剣を落とし、両手で顔を覆った。
「もう嫌だ……私の物語に帰りたい……」
◆
光が再び二人を包み込み、気づけば無限図書館の書架に戻っていた。
妖精は小さくため息をつき、恥ずかしそうに笑う。
「役回りは小さくても……平和な物語にいられるほうが幸せなんだね」
女性館長は静かにうなずき、彼女を優しく本の中へと送り返した。
童話本の表紙がぱたりと閉じ、再び書架に収まると、図書館には穏やかな静けさが戻った。