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あらしをこえて

祝20話


アイツはまるで私が来るのを予想してたみたいに、蹴破られたドアと私を見て、冷静に声を発した。


「おや、アイリスクン。また私の手伝いをしてくれる気になったのかな?できればドアは普通に開けて欲しかったものだが。」


「ふざけるな!誰が二度とあんなことを!

あぁもう御託はいい、そのポッドに入ってるのは何だ!」


「これかい?この子は良い。素晴らしい素材になる!ヒャヒャヒャ!」

ガウラきゅんが閉じ込められたポッドを愛おしそうに撫でながらそう言い放つ。



問題は発言の中身だ。今「素材」にするって言ったよなアイツ。


「素材」。きっと未だに完成していない「α」の素材だろう。その素材が何でできているのか、された者達が何をされてどんな末路を辿るのか。「α」の研究に途中まで携わり、素材を作らされていた私にはわかる。わかってしまう。


嫌な過去を思い出して跪いて吐いてしまいそうになったけどなんとか踏みとどまって、怒りで自分を奮い立たせる。


「絶対にそんなことはさせない。早くガウラくんを解放しろ。」

「そんなに怖いカオで見ないでくれたまえ。キミだって散々やってきたじゃないか。」

「黙れッ!」


全身が熱くなるのを感じる。怒りで身体が震える。心臓がドクンドクンうるさくて、目の前も真っ赤。身体に火が付いたみたいだ。


それは、このムカつく野郎をぶん殴ってやろうと燻る炎。


それは、今まで「素材」してきた者達への贖罪を成すべくと燃える炎。


それは、我が身諸共ここにある全てを焼き尽くさんと滾る炎。


様々な思い…「意志」が薪のように焚べられる。

それにつれて身体の熱が上がっていく。もう骨の髄まで焼き溶けてしまいそうだ。


その時、ボンッと何かが爆ぜた音。

アイツが何かをしたわけじゃない。紙袋越しにわかるくらい目を見開いて驚いている。

じゃあなんだ、と音の出元を探っていると、下の方に揺らめくものが見えた。どうやら私の身体が燃えているらしい。


真っ赤に染まった視界の先で、私の両の手足に火が点っている。この現象は_______


「…魔法?」


まさか私が、こんな場所で覚醒するなんて。

魔法を覚醒させるだけの「意志」なんて私には無いものだと思っていたのに。でも、好都合だ。


まずはあの腹立つ野郎をぶん殴ってやる。

床を踏み抜くくらいの力で床を蹴り、加速する。さらにジェットブースターの要領で足から炎を噴かしてさらに加速。

アイツの顔をきっちりロックオンして、最高速を乗せた燃える拳を、腰の捻りも加えてありったけの力で振り抜く。


「ぶっっっとべぇぇぇ!」


ドゴォ、と心地の良い音を響かせてあの外道が吹っ飛ぶ。間違いなく会心の一撃だ。


アイツは吹き飛ばされてお゛ぅ゛っと情けない声を上げてαのポッドに激突したけど、ポッドにはヒビ一つない。よほど頑丈に作ってあるのだろう。


さて、一番大事なことをほったらかしてしまっていた。ガウラきゅんを助けないと。


ポッドの近くの端末を急いで操作する。解放するためのボタンがあるはず。 …見つけた。迷いなく押す。


しかし。


「パスワードなんて知らないわよ…!」


パスワードを要求されてしまった。助手時代にもパスワードらしきものなんて教えられていなかった。


正規の手段で解放する手段を断たれてしまった。

ならやることは一つだろう。直接殴ってこじ開ける!

中のガウラきゅんに破片とかが当たってしまうかもしれないけど、もうこれしか手段がない。


右手に再び炎が舞い上がる。ガンガンと力任せにポッドの強化ガラスを殴りつける。ものすごく硬いけど、今の私なら壊せる!


強化ガラスにどんどんヒビが入っていき、やがて粉々に割れた。


素っ裸にされたガウラきゅんを抱える。普段なら興奮していたところだが、生憎今はそんな余裕はない。


ガウラきゅんの服を研究所を漁って見つけて回収。(雑に手術台の上に乗せられていた。もっと丁寧に扱えよ。)


まだ気を失ってるガウラきゅんに服を着せて、再び抱え直して研究所を後にする。

階段を上り、地上に出ると嵐は過ぎていて、ちょっと雲がかった満月が私たちを照らしていた。




「っていうのが事の一部始終。あ、この話はガウラきゅんには言わないでね。一応秘密にしてるから。」

「わ、わかりました。そういえば、なんでガウラくんは研究所に?」

「あの子はすっごい優しくてね、アイツが地下で水没しないか心配して確認しに行ったらしいの。」


そう言ったアイリスさんは、なんとも言えない複雑な表情をしていた。


アイリスの魔法名は『レンゴクホムラ』

己が身を焼いて過去を償うために。そして、愛する者の障害となるものを全て焼き払うために。

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