あらしのひのこと
「ガウラくんを実験台に...?」
「ええ。αのために必要だとかなんとか意味のわからないことをほざきながらね。」
そうあれは、カルミアくんがここに来る前の話。
この島では珍しい、嵐の日のことだった。
住処にしているテントが吹き飛びそうになるくらいの凄まじい雨や風。
そんな状態でまともに寝れるわけなどなく、轟く雷鳴にまだ夜も深い内に叩き起こされた。
起きてまず何を考えるか。そんなの決まってるでしょ。ガウラきゅんのことだ。
濡れるのは嫌だったけど、それでもガウラきゅんのところに向かう。
もしかしたら怖がって泣いているかもしれない。
「ガウラきゅーん!おねえちゃんが守ってあげるよふひひひひ、ひ?」
しかし、かまくらの中を覗いても誰もいなかった。
他のどのテントの中を見てもどこにもいない。
「家」を尋ねてもガウラきゅんは来ていなかったらしい。
プールになんてもちろん居なかった。
あと思い当たるのは数箇所くらいか。
島の外周を流れる川の終点にはちょっと寒いけど綺麗で、雨宿りして一晩明かすくらいはできそうな小さい洞窟がある。
だけど、この嵐で川の流れも水の量もすごいことになってる。こんな状態で洞窟に居たら水でいっぱいになって溺れてしまう。その前に川で溺れる方が先か。どっちでもいい…いやよくないけど、そんなことになるのはあのちょっとアホの子なガウラきゅんでもわかるはず。
それでも万が一があるので行ってみたけど、案の定誰も居なかったし、洞窟内の水位も高くなっていた。
他にも時計塔、御神木クラスの大きさの桜の木の下とか思い当たるところは一つを除いて全部探した。だけど、見つからなかった。
残る最後の一つ。考え得る中で最も最悪な選択肢。それは…
アイツの研究所。
もうアイツの名前を思い浮かべるのも嫌だけど、そこにガウラきゅんがいる可能性があるなら行かなければならない。彼を失えば私が生きる意味も理由も消えてなくなってしまう。
彼が研究所にたどり着いてしまう可能性も0じゃない。あの入り口は目立つからね。そこに行く前に私にも相談してほしかった。
水たまりを踏み抜いて足が泥だらけになったことに不快感を覚えたが、そんなことを気にしてる場合じゃない。
水を吸って重たくなった足を無理矢理動かして地面を蹴り進む。もう雨の音も耳には届かない。
地面をすり抜け階段を跳んで飛ばして研究所の扉の前に立つ。嫌な過去の記憶がフラッシュバックしてドアノブにかけた手を鈍らせる。
だけど過去は過去だ。私は未来に進む。
ドアノブから手と距離を離す。未来に進むと決めたが過去が怖いことには変わりない。だから、その恐怖を吹き飛ばすために。それに、未来を掴むには、手は空いてなければいけない。嫌な思い出を持ったままでは未来に手なんて届かない。
怒りと決意を乗せて、地面を強く蹴り飛ばす。
「ガウラきゅんを出せやコラァ!」
そして、勢いに任せた渾身の蹴りをドアに叩き込んだ。
バァン!といい音を立ててドアが開く。
視界には培養ポッドの前に立つアイツの姿。
他の培養ポッドには培養液しか入っていない。
だけど、アイツの前にあるポッドの中には___!




