ふたりで作るバザーの日
勤務のない日
杏子は、幼稚園のバザーの話し合いに参加するため、幼稚園へ向かった。
集まった保護者たちは、ほとんどが専業主婦。働いている人も、杏子のように短時間のパート勤務だった。
「家にあるもので提供できるものがあれば、ぜひお願いしますね」
「手作り品も出せる方は、ぜひ!」
リーダー役の保護者がにこやかに話す。
(手作りって……みんな得意なのかな。私、不器用なんだけどな)
杏子は心の中でそっとため息をついた。
「わたし、アクセサリー作ろうかな~」
「私は布小物、簡単なのを!」
あちこちで軽やかな声が飛び交う。
(すごいなあ。私、何ができるだろう……)
胸の奥が、少しだけモヤモヤした。
だけど、杏子は小さく頷く。みんなで分担して、一緒に作り上げるイベント。
できることを探して、できることをやろう。そう、静かに思った。
杏子は、周りを見渡した。
にぎやかに話している輪には入りづらくて、少し離れたところに座っている保護者に目を留めた。
(同じくらい、ちょっと遠慮がちな感じ……かも)
そう思うと、自然と体が動いていた。
「あの、よかったら、一緒に何か作りませんか?」
杏子は、少し声を震わせながら声をかけた。
その保護者は、驚いたように杏子を見たあと、ふわっと笑った。
「うん、ぜひ!」
その笑顔に、杏子もほっとした。
(よかった……)
胸の中に、少しだけあたたかいものが広がった。
ほっと胸をなでおろしながら、杏子は自己紹介した。
「わたし、牧野杏子です。年少の翔の母です」
「相田です。優斗が年中にいます。よろしくね」
軽く頭を下げ合うと、少し空気が和らいだ。
「相田さんも、お仕事されてるんですか?」
「うん、スーパーでレジ打ちしてるの。週に3日だけだけど」
「わぁ、すごい。レジって大変そうなイメージあります」
相田は笑いながら首を振った。
「今は自動精算機だから。おつりは間違えようがないの。
ぼーっとしてるとミスしちゃうけどね」
「それ、私もやりそうです」
二人は顔を見合わせて笑った。
(話しやすいな、この人)
自然と緊張がほどけていく。
「よかったら、何か簡単な手作り品、一緒に考えませんか?」
「あ、うん、ぜひ!」
嬉しそうにうなずき合い、杏子は少しだけ胸を弾ませた。
「何か作るって言っても、何がいいかなあ」
杏子が言うと、相田も首をかしげた。
「みんな、アクセサリーとか布小物とか言ってたけど……私、そんなに器用じゃないし」
「私もです」
二人は顔を見合わせて、また小さく笑った。
「簡単なものがいいですよね。たとえば、巾着袋とか?」
「うんうん、いいかも。まっすぐ縫えばいいし」
「手縫いでもいけるかな?」
「たぶん、大丈夫!」
ふたりの間に、少しずつ前向きな空気が流れはじめた。
「じゃあ、材料とか、作り方とか、あとでまた相談しましょうか」
杏子が言うと、相田はうなずいた。
「うん、連絡先、交換しとこうか。LINE、大丈夫?」
「はい、お願いします!」
杏子はスマホを取り出しながら、どこか嬉しい気持ちだった。
誰かと一緒にやれること。
それが、こんなに心強いなんて、思っていなかった。
できるかどうか不安だったバザーの準備。
でも、誰かと一緒なら、ちょっとだけ前向きになれる。
杏子の「やってみよう」の気持ちが、優しいつながりに変わっていきます。