表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな花束を抱えて ― 不安も、悔しさも、未来への種にして ―  作者: ひまわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/16

ビーズとペペロンチーノと、ちいさな決意

仕事がない日、杏子は相田を家に招いて、バザー用の手作り品を作ることにした。

今回作るのは、子どもたちにも人気がありそうなカラフルなビーズのブレスレット。

最初は少し緊張していたけれど、並べたビーズを見ながら「この色、可愛いね」「こっちも合わせてみようか」と話すうちに、自然と笑顔がこぼれた。


ひとりで黙々と作業するのも嫌いではないけれど、誰かとおしゃべりしながら手を動かすのは、やっぱり楽しい。

「あ、ちょっとビーズ転がっちゃった」「あー、わかる〜!」

そんな小さなハプニングすら、なんだか嬉しかった。


お昼には、杏子が簡単なパスタを茹でた。

冷蔵庫にあったベーコンときのこを炒めた、シンプルなペペロンチーノ。

「ごめんね、たいしたものじゃなくて」

「ううん、すごく美味しいよ」

そんなやりとりを交わしながら、春の日差しが差し込むダイニングで、ゆったりとした時間を過ごした。


気づけばテーブルの上には、色とりどりのブレスレットが並んでいた。

ちょっといびつなものもあるけれど、それもまたご愛嬌だ。

杏子は、こんなふうに誰かと一緒に過ごす時間が、今の自分にはとても大事なものなんだと、あらためて思った。


午後も、ふたりは並んでビーズを通し続けた。

手元は忙しいのに、会話はふわふわと軽やかだった。


「杏子さん、パートって週に何日くらい入ってるの?」

ふと相田が尋ねた。


「週に3日くらいかな。家庭と両立できるように、無理しないって決めてるの」

そう答えながら、杏子は自分でも、少し驚いた。

こうやって自分のことを話すのは、久しぶりかもしれない。


「わかるなぁ。私も、無理すると結局、自分がまいっちゃうから」

相田もにっこり笑った。


そんなふうに、家族のことや仕事のこと、他愛のない話を重ねるうちに、心の距離が少しずつ縮まっていくのがわかった。


夕方、作業を終えたころには、

「なんだか、学生の頃みたいだったね」

と、ふたりして笑い合った。


玄関先で見送ったあと、杏子はふと、心がぽかぽかしていることに気づいた。

大人になってから、こんなふうに誰かと自然に打ち解けられる時間って、案外貴重なのかもしれない。

そんな思いを胸に、まだ少しビーズが転がったままのリビングを眺めて、そっと微笑んだ。


片付けを終えて、ソファに腰を下ろす。

今日の楽しかった時間を思い返しながら、杏子はふと、心の奥にしまっていた気持ちを見つめた。


――いずれは、正社員として働きたい。

家計のこともあるけれど、何より、自分自身のために。

誰かと一緒に働いて、成長して、社会の中で自分の居場所を作っていきたい。


今はまだ、パートでできることをコツコツ積み重ねている段階だけれど、

こんなふうに、人と関わりながら少しずつ前に進んでいけたらいいな――。


杏子は、そっと自分にそう言い聞かせた。


春の光は、リビングのカーテン越しにやわらかく伸び、

これからの道を、そっと照らしてくれているようだった。


誰かと過ごす穏やかな時間が、胸の奥にしまっていた気持ちをそっと引き出すことがある。

杏子にとってこの日は、日常の中の小さな転機となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ