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第一章:赤ヘルの夜明け
この作品はノンフィクションです。
1975年、広島は新しい時代を迎えようとしていた。街のいたるところに高層ビルが建ち始め、戦後復興を遂げた広島市の空気には、どこか希望の匂いが漂っていた。
その希望の象徴になりかけていたのが、赤い帽子の軍団──広島東洋カープだった。
それまでカープは弱小球団の代名詞だった。1950年の創設以来、万年Bクラス。資金難で選手の給料もままならず、解散の危機に瀕したことさえある。それでも、広島市民はこの球団を見捨てなかった。「市民球団」という言葉は、他のプロ球団にはない重みと誇りを持っていた。
そして、1975年。球団創設25年目の節目に、ひとつの転機が訪れる。
新監督、古葉竹識の就任。
古葉は実直で理論派。だが何よりも、人の心をつかむ男だった。就任会見で彼が言った言葉は、ファンの心を射抜いた。
「野球とは、技術以前に“気持ち”の勝負です。カープを変えるのは、私ではなく、彼ら選手一人ひとりの誇りです」
この言葉は、ロッカールームにいた若手選手たちの胸に深く刻まれた。