起きたら最後、魔法より先に筋肉が湧く
拓斗は太陽の眩しい光で目を覚ます。
「眩しっ!おお、知らない天井だ。」
目を覚まして辺りを見回す。
部屋だ。大きな部屋。
アパート暮らしだった時に住んでいた部屋よりもずっと大きくて煌びやかな部屋。
「えぇ…ここどこだよ。」
自分の寝ていたベッド。これもさぞ高級なのだろう。一度触ってしまうと手が離せなくなるようなふかふかなベッド。
それを触りながら拓斗が呟く。ふと扉の前に目をやる。
「は?」
そこにはメイド姿の幼女が三人。
顔は似ているが髪が薄い赤、薄い黄、薄い緑の信号機みたいな奴らがそこにはいた。
「お姉様あれ奇妙です。人みたいな形してます。」「お姉様気付いたようですよ。勘は鋭いですね。」「お姉様あれ気持ちわるいです。なんか色々混ざってます。」
「全部聞こえてんだけど…」
初対面の相手に気持ち悪いと言われて内心少し落ち込んでいる拓斗は、しかし警戒を緩めることはない。
「ここはどこだ?アンタらは誰だ?てかなんで全員それぞれのことお姉様呼びなの?」
拓斗は自分の感じた疑問を口に出す。こいつらの気配を自分は感じることができなかった。こいつらもあのドラゴンと同じ部類なんだろ。
「「「お姉様はお姉様です。残りはそちらの執事長に聞いてください。」」」
指をさされた方を見て唖然とする。
いつの間にか筋骨隆々の執事服をビシッと決めた爺さんが立っていたからである。
拓斗はベッドから飛び出し距離をとり戦闘体制に入る。
「おいおい、マジでどうなってんだよ。ここは地獄か何かか?俺死んだんか?」
そして男は気づく。自分の左腕が生えていることに。それどころか体のどこにも火傷の傷がない。
ありえない。散々焼かれたはずだ。
「ほほ、面白い冗談をなされますね。“ジゴク”?というのはよくわかりませんが、貴方様はまだ生きてますよ。ああ、その体はこちらで治療させていただきました。」
腕や体を気にしているのがバレたのだろう。
「とりあえずここで話すのもなんですので…服はこちらで新調していますので、こちらを着ていただけますかな?それとお食事などはどうでしょう?嫌いな物などはありますかな?」
「あ、アリマセン。」
拓斗は何も言えなくなっていた。
完全にペースを持ってかれた。
この爺さん、できるな。
すっと出されたそれはスーツだ。
拓斗は言われるがままセミフォーマルな服装に着替える。
「ああ、お手伝いはしなくて大丈夫でしたか。もしや良いとこの出ですかな?」
爺さんが話しながら部屋の扉を開け、ついてくるように促す。
拓斗に抵抗する余力は残っていない。何より
『抵抗しないでください。抵抗した場合あなたは死にます。』
こんなん出てきたら抵抗する気も起きんわ!
拓斗は渋々爺さんについていく。
長い廊下を進んだ先に大きな広間。
その中心に、皿が置いてある大きなテーブル。
拓斗は促されるままその席のひとつに腰掛ける。
「ハハハ、よう我が客人。強くか弱き人間よ。我が屋敷は寛いでもらえたか?」
「あー、やっぱりお前か。」
高笑いと共に席に座る竜。なんとなく予想はしていた。
「で、お前との殺し合いの続きは、一緒に飯を食べるのか?」
「ハハ、ああその通りだ。喧嘩した後は、ご飯を食べて仲直りというのが人間界の定番と心得ておる。さあ食べようぞ。」
だいぶ偏った定番ですこと。と手元に目線を戻した時には既にスープとパンそして豪勢なステーキが配膳してあった。
後ろでは「お姉様、気づかれませんでしたよ。」「お姉様流石です。」「お姉様も料理の腕あげましたね。」と、メイド達が喋っている。
遊ばれてんな、俺
頭の隅でそんなことを考えながら早速飯に手をつける。
「うお!うめぇ!なんだこのステーキ。」
素人の俺でもわかる、口の中に入れた瞬間非常に柔らかく、さっぱりとした味わいで、食べると口の中で溶けるような食感。
「ハハハ、そうであろう、我が屋敷の料理人は腕がいいのだ。して人間、お主は何か聞きたい事があったのでは?」
「ああ、そうだった。まず初めにここはどこだ?ああ、嘘はつくなよ頼むから。」
「別につかんよ、竜は嘘はつかん生き物ゆえ。さらに、油断して手加減していたとはいえ負けた上でその相手に逆らうほど我も恥知らずではない。」
油断、手加減という言葉に少し引っかかりながら拓斗はその言葉を流す。
「ここは我が治めている国、レドブルム竜国よ。」
「レドブルム竜国?ドルディアラってとことは別の国か?」
「おお、ドルディアラは知っておるか。あそこは契約竜が治めてる国じゃよ。」
やっぱり竜ってのは一匹じゃない。
こんなやつが数匹いるってこの世界のバランス大丈夫か?
「OK、で、この後俺はどうなる。客人と言ってたが、俺はお前に、この国の偉いやつに牙を向けたってことだろ?」
これがいちばんの問題。
今は謎に歓迎されているかもしれないが、相手は先刻殺しあってたやつだ。
敵の陣地のど真ん中にいる以上、拓斗は生きた心地がしなかった。
いつこの屋敷の化け物どもが襲ってきてもおかしくない。
拓斗は竜の言葉を注意深く聞く。
「別に。何もしないが?そう身構えるな。我はお主に負けたのだぞ。今更どうする気もないわ。これからお主がどうしようと関係ない。ただ負けたものから勝ったものへの最低限の、というやつじゃ。」
しかし竜から出たのは拓斗の想定外の言葉だった。
「あっそ。なら俺はこれで。」
出された料理を余すことなく完食し、ナプキンで口を拭きながら席を立とうとした時…
「少しお待ちいただけますかな…」
爺さんが肩に手を置き力ずくで席に座り直される。
「イデデデ!その力、爺さんどうなってんだまじで。」
爺さんに文句を言おうとした時
「話はまだ終わっておらんぞ。負けたものは勝者に従うのが竜の中の決まりゆえ。何が欲しい?富、地位、なんでも言うてみよ。」
「何でもか?そりゃまた随分と大きく出たな。」
「竜に叶えられん事はないのだ。そうだな、パッと思いつかんのだったらお前の夢を言うてみい。叶えてやるぞ?」
竜が、得意そうに言う。
夢。拓斗は今一度自分の夢を思い出す。
「いや、そりゃ無理だな。お前に俺の夢は叶えられねーよ。」
考えてから拓斗は竜に言葉を返す。
単純な夢。至って普通の凡人の夢。
でも、拓斗にはその光景にたどり着くまでの道のりに竜に叶えてもらうなどという選択肢は無かった。
拓斗のその光景に竜の力は必要なかった。
「今のは聞き捨てならんな。我に叶えられぬ事があるとでも?」
「ああ、あるな。少なくとも俺の夢は。お前は自分のことを万能だと思い過ぎだぜ。」
ヘラヘラと笑う男。
煽り耐性がないらしい。
声色から少しイライラしている事がわかる竜。
敵対するメリットもないし、これ以上おちょくるのは危険だよな…
「確かにお前はすげー。俺が今まで会った中で一番強ぇ。あの火の槍なんかもめっちゃカッコよかったし、竜ってだけで特別感がぱねぇ。」
「え、ああ、うむ。」
自分でも思う手のひら返しだが、竜は褒めることに関しても耐性がないらしい。
まじでよかった。
「まあ、さっきのは言い過ぎた。でもまじで忠告だから。俺もいつか叶えて欲しいことがあるかもしれないしその時にお願いするわ。」
「しかしそれでは我の示しがつかん。」
「ああ、なら少しのお金と冒険証作る場所教えてもらっていいか?」
「そんなことでいいのか?なら案内してやろう。金も今用意してやる。しかしコレはおまけじゃ。叶えて欲しい事ができたらしっかりと言うんじゃ。我に叶えられん事などないからな。」
「もうそれでいいよ。とりあえず頼むわ。」
どこからその自信が湧いてくるのか少し疑問を浮かべながら拓斗は竜と広間を後にした。
………
どうも作者です。今回のエピソード、いかがでしたでしょうか?
拓斗くん、気づいたら豪邸でモーニングステーキ。
一応バトルファンタジーだった気がするんですが、作者の脳が寝起きだったので「異世界朝ごはんモーニングルーティン編」が爆誕しました。
拓斗の手のひら返しの速さ、五輪種目で金メダル狙えるレベル。
次回、拓斗が冒険証を作る場所に向かう予定ですが、まともに進むかは保証できません。
だってこの世界、常識が迷子なんだもの!