オレは最強!……うっぷ、ちょっと休憩
老人になるまで生きて、
高い酒かっ食らって、
豪邸に住んで、
もふもふの犬を何十匹も飼って、
一日中のんびりして、
日の当たる庭で朝ごはんを食べて、そして…
それは拓斗の夢だった。
一度は叶わぬと諦めた景色
でもこの世界に来て、もう一度チャンスが与えられて、なのにこんな所でまた終わる?
ふざけんじゃねえ、終わってたまるか
ならどうする?目の前の奴を殺すか?
ふと目の前を、浮かんでる文字を見る。
『目の前の敵は殺せません、潔く自害を推奨。戦った場合アナタは…………』
“敵”
それだけ分かればどうでもいい。殺すための理由はそれで十分だ。
短剣の先を相手に向ける
「良いぞ、人間。獲物も死んで興が醒めていた所だ。付き合ってやるぞ。」
ハハハ、とバカ笑いしてる竜
「笑ってろよバカドラゴン。」
ギンッ!火花が飛ぶ。拓斗の振り下ろした短剣は竜の首を捉えていた。
しかし、当然のように素肌に弾かれる
「は?硬すぎだろ。普通刃物と皮膚が当たって火花散るか?」
「早いな。人間にしては。」
竜は一歩も動かない。珍しい動物を見るかのように目だけで拓斗を追っている。
何度も何度も切りつけるが、火花が出るだけ。それを心地良いように竜が浴びる。
「マジでなんなんだこいつ。傷もつかねーから能力も発揮できねーしよ。」
血、血があるだけでいい。血があれば…
「おい、お主何をしておる?」
竜の動揺、いやドン引きか?
拓斗がした行動はそれくらい衝撃的なものだったのだろう
「痛ってぇぇぇ!リスカってこんなもんなんか?こりゃソンケーだな、マジで!」
短剣を自分の手首にぶっ刺す。ドクドクと脈をうつのがわかる。
「元のスペックが弱ぇからな!たくさん吸わねーと!……よし、これでパワーアップ!」
手首から短剣を抜く。不思議と血は出てこない。
動揺している竜を容赦なく切りにいく。
「ッ!」
竜が初めて動く。そのイかれた男の短剣を竜が避ける。
竜は本能でその攻撃を避けた。その牙が自分に届くと言うことを竜は本能で理解した。
次に竜がとったのは攻撃体制。その男を敵として殺そうと…
しかし遅すぎた。その竜がその男を敵と認識するにはあまりにも遅すぎた。男の牙がその竜の首に当たる。
クン!
竜が首を傾ける。
済んでのところで短剣を躱す。
ブシュッ!
飛び散ったのは火花ではなく赤い液体
「ッ!血が、」
竜の首から血が垂れる
「ヒヒ、傷ついたな、ヒヒヒ、ハハハ、ギャハハハハ!」
洞窟の中にきみの悪い笑い声が響く。
傷は少し、しかし、拓斗の能力をさらに上げるには十分すぎる量だった。
もう拓斗の動きは人間の出せる動きではない。目で捉えられる速さではなくなって…
人であれば勝負はついていたであろう。しかし、敵は竜だった。
圧倒的な力の差は瞬時に埋まるものではなかった。
竜から現れたそれ、赤黒く燃えている槍
それを認識した時にはすでに自分の左腕が消し飛んで…
「ギャハ、まじか、痛ぃじゃねーか、ギャハハ」
血が出てこない。腕の切れ口が焼けているのだ。ただ、この男を止めるにはあまりにも緩くかった…
竜は戸惑う。目の前の男が自分の知っているものとあまりにも違う。
竜は開拓者を…腕を切り飛ばしても火で焼いても当然のように突き進んでくる男を竜はまだ知らなかった。
一回、また一回と、自分の体が傷ついてゆく
もう、目で捉えることも難しくなっーーー「チェクメイトだ。化け物。」
いつから後ろにいたのだろう、自分はこの男に殺されるのか。人を舐め、人に殺されるなど。
ああ、なんて不甲斐ないことか。
男を見る。これから自分を殺すであろう男を見る。彼の短剣が首にあたり…
「ギャブ、オエェ……。なんだよ、これ…」
男の牙は竜の首には届かなかった。
拓斗はゲロってその場に倒れ込む。
拓斗はなぜ自分が倒れているのか、なぜ自分が吐いているのか、それを考えることも出来ない。
視界が歪む…頭がガンガンと鳴り、拓斗の意識はそこで途絶えた。
意識が飛んでいる男の上で文字が流れる
『あなたは、カルマを一定数積みました。“キバ”との融合により酔いが発生します。※あなたは悪意を持って“キバ”で傷をつけました。』
男はそれを見ることもなく…
…………
どうも作者です。
今回のお話は「主人公が自分の血を吸ってパワーアップする話」だったはずが、
結果として「自分の血を吸ってテンション上がってゲロ吐いて倒れる話」になってしまいました。
拓斗の完全に酒に酔ったオッサンムーブ、見てて心配
次回、たぶん回復か介抱されるか叩かれます(予定は未定)