第8話 誓約の印(しるし)
第一章完結
シリルの逮捕状が出てから4日後、第一騎士団が教会に現れた。その数200名。
騎士団長は罪状を読み上げた後、シリルに提案を行った。
「君が司祭長を脅したのは、止むに止まれぬ事情があったことは理解している。司祭長と和解できるよう取り計らうので、どうか我々と同行していただきたい」
シリルはニヤリと笑った。
「いやだと言ったら?」
200名の騎士を見て少しばかり興奮していた。前回50名の騎士だが、今回はもっと遊びごたえがあると思ったのだ。
騎士団長はため息をついた。
「力づくで逮捕するしかないが……」
シリルは叫んだ。
「やってみろよ!」
騎士団長は号令をかけた。
「第一中隊、三段構え!」
90名の騎士が槍を構えて、シリルを囲んだ。
「三段三連突き、用意! ……やれ!」
騎士たちが槍を突こうとした瞬間、竜巻が巻き上がり90名の騎士たちは吹き飛ばされた。風が止んだ時、エルフの瞳は金色に輝き、腰の剣も光を放っていた。
騎士団長は驚き、そして感心した。
「これ程とは……第二中隊前へ……捕獲準備!」
シリルはギラギラと金色の瞳を輝かせながら笑っていた。
「どこからでもかかってきな!」
その時、たくさんの玉のようなが投げ込まれた。
避けようとしたとき、目の前で眩しい光が炸裂した。
「しまった。『聖光玉』か!」
眩しさに、一瞬動きが止まった。飛んで逃げようとしたら、頭上の何かに引っかかり飛ぶことがでなかった。
目を開けると大きな網に捕らわれていて、すぐに100名もの騎士が上から乗りかかり、身動きが取れなくなっていた。
剣を抜こうとしたが、その前に拘束用の魔術具で、シリルは逮捕拘束されてしまった。
シリルは屈辱に大声で叫んだ。
「くそ、汚ねえぞ!」
騎士団長は冷静に淡々と答えた。
「我々は対人捕獲も専門でね。これが我々のやり方だ」
シリルは連行され領都で、投獄監禁された。
「ゼノア姉ちゃん、助けて……」
失意の中、彼女は監獄の内で助けが来てくれるのを待つしかなかった。
その頃、ゼノアは王都の王城の前に立っていた。
ゼノアは首にかけていたペンダントを取り出した。とても古そうな金の円盤の四隅に赤、青、緑、黄の宝石が、真ん中に大きな虹色の宝石が嵌められていた。
「このペンダントを覚えている人はいるかしら……」
ため息をついて、ペンダントをしまうと、王城へと飛んでいった。
深夜の静寂が寝室を包み込んでいた。
カーテン越しに差し込む月光が、ボルダイン王の顔を淡く照らしていた。
だが、微かな気配が王の眠りを侵し、ボルダイン王は目を覚ました。
目の前に金色の瞳を持つ妖艶な女性が立っていた。
彼女は微笑みながら、じっと王を見つめていた。
驚愕に息を飲む王の手が、無意識に剣の柄を探っていた。
「な、何者だ?」
声が震える。だが、女は一歩、静かに近づきながら笑みを絶やさなかった。
「みんな眠っています。危害を加えるつもりはありません。どうか、お静かに」
彼女の指がそっと王の唇に触れ、冷たい感触に王は動けなくなった。
そして、女は静かに胸元からペンダントを取り出した。
「これをご存じですか?」
それを見た瞬間、王は全身に冷たい汗が流れた。
王は目を見開き、信じられない思いでそのペンダントを凝視した。
「なぜ……なぜ王家の秘宝をお前が持っている?」
「これの片割れが継承されていたのですね。よかった!」
王は震える手で自分の胸元を探り、ペンダントがあるのを確認して安堵した。
女は笑顔になり、全身から喜びが溢れていた。
先ほどの妖艶さはなく、まるで少女のような無邪気さに変わっていた。
「片割れ……本当に伝承の……」
「そうです。誓約の印です」
王は胸元からペンダントを取り出した。そして、彼女の持つペンダントと合わせた瞬間、宝石が七色の光を放ち始め、部屋全体がその光で包まれた。
「これが……虹の祝福……伝承に語られる光景を、この目で見られるとは!」
涙を流しながら、王は膝をつき、ゼノアに深々と頭を下げた。
「誓約に従い、何なりと仰せください」
ゼノアは安堵し、そして意を決して王に告げた。
「お願いしたいことがあります」
千年前、この地に今とは違う国が建国された。その時ゼノアが大いに貢献した。その感謝を示すため、ゼノアとその子孫が助力を乞うた時は必ずそれに応えると誓約し、二つのペンダントが造られた。
「誓約の印」である。
ひとつはゼノアに、ひとつは王家が持つこととなった。
その国は滅び、別の国が興った。
しかし「誓約の印」は親から子へと物語とともに伝えられていった。
長い時がすぎ、その血脈は途絶えたが、「誓約の印」は秘宝と呼ばれ伝承とともに受け継がれていった。
それを受け継いだ一族の中から新たな国、ボーダイン王国を興す者が現れた。
王族は小さい時から、伝承を教え込まれ、「誓約の印」は王の証として受け継がれた。
今のボーダイン王も、小さい頃はお伽噺として楽しんでいた。
王位を継ぎ「誓約の印」を手にしたときも、ただの作り話だと思っていた。
今回伝承されていた話が本当にあったでき事であることを知った王は、感激に打ち震えたのだった。
王は、ゼノアに侯爵として残って欲しいと切願したが、ゼノアは丁重に断った。
王は残念がったが、彼女の願いを聞き入れた。
「シリル、今回のことで改めて人間の強さが分かったでしょ?」
「『戒めの冠』さえなければ、負けなかったもん!」
「ふふふ、良い勉強になったでしょうから、素直に負けを認めなさい」
「悔しいけど……負けを認めるよ」
シリルとゼノアは孤児院を見ていた。
「孤児院は、王様の物になったの?」
「正確には私の物になったけど、管理は王が請け負ってくれるの。ただし公にはしない」
「ふ~ん、何で公にはしないの?」
「王位継承とか政治が関わると碌なことにならないから……」
「碌なことがあったんだ」
「ええ、昔はそれで苦労したわ。だから国とか政治には関わないことにしたの」
「確かに、気楽に旅とかできないね」
「そう言うこと」
「ミミは、やっぱり連れていかないの?」
「ミミには普通の生活をしてほしい。それに私たちとは生きる時間が違うわ。長く一緒にいると、お互いのためにならないこともあるの」
「ボクには分からないや」
「シリルも人を育てたら分かるわ」
シリルはペンダントを面白そうに見つめ、ゼノアは嬉しそうに撫でていた。
「それが『誓約の印』……見せてもらうのは初めてだな」
「そうね。千年も経つから、ただの記念品、思い出の品になってたわ」
「しかし千年か……そんなに長い間受け継がれていったなんて、凄いね」
「ええ、本当に。人の寿命は短く、人が造った物も……。千年も受け継がれているとは思わなかった。改めて人の思いの強さに驚かされたわ」
「思いの強さねえ……」
「あなたにもあるでしょ? ガーランド……」
シリルの顔色が変わった。
「じっちゃん……」
「あなたとガーランドが住んでいた、思い出の地エリアラサースに行ってみる?」
「いや、まだいい。じっちゃんの仇、あの魔人を殺すまでは戻らないって誓ったんだ」
「そうだったわね」
「うん」
「でも、もしかしたら、その魔人がまた来てるかもよ?」
「えっ? 本当?」
「もしかしたらよ」
「よし、いってみよう!」
「ずいぶん軽い誓だこと」
「だって仇の方が重要だもん」
漆黒の魔女ゼノアと暴風のエルフ・シリルは、孤児院を背に旅立っていった。




