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第52話 帝国軍侵攻

バーラント帝国、第三軍団長バージルがドナシェル隊長を呼んだ。


バージルが苦渋の面持ちでドナシェルに告げた。


「タダン、迷宮都市への侵攻が閣議決定された」

「主戦派に押し切られてしまいましたか」


「ダンジョンを抑えれば、戦争せずとも迷宮都市を手に入れられると言うのに」

「主戦派は武功を上げたいのでしょう」


「ああ、若者は性急すぎて困るよ」

「団長も十分若いと思いますが」


「お世辞などいらん。君はワイバーン隊を引きいて、待機だ」

「分かりました。ダンジョン攻略はどうなるのですか?」

「保険として続行だ。そこでドレイク対策の物資もついでに運んでくれ」

「はっ!では急ぎ準備して出立します」


ドナシェルが出ていくと、バージルは深くため息をついた。


「こうなった以上、どんな犠牲を払っても迷宮都市を手に入れなければ……帝国は衰退する」




二週間後、迷宮都市の大通りの混雑はなくなったが、屋台や出店はまだ多く残っていた。人々は思い思いに楽しんでいて、まだ街にはお祭り騒ぎの余韻が残っていた。


ダンジョンも以前のように多くの冒険者が入るようになった。ただいつもと違っていたのは、灰色で統一されたパーティーの後ろに長い行列ができていたことだった。


先頭のパーティーはヴァレンツ率いる「鋼の獅子」だった。「鋼の獅子」が49階の攻略に向かうのに誰も疑問は抱かなかったが、100名の者が一糸乱れぬ行列を作って付き従うのは、迷宮都市の冒険者には異様に映った。


さらに一か月後、冒険者ギルドにゼノア、シリル、「金の木漏れ日」のリーダー、ブリオニー、「金の竜爪」のリーダー、ベルハルトが招集されていた。


ゼノア、シリルに睨まれてギルドマスターとブリオニーは冷や汗を流していた。

彼らのせいでゼノアが魔物だとばれ、教会が動き出してしまったのだ。

彼女たちは迷宮都市を出ていくか悩んでいたのだ。


シリルが一番に口を開いた。


「こっちは迷惑をかけられてるんだよ。話を聞く義理なんかない」

「そ、それは……」


ギルドマスターとブリオニーは口籠ったが、気の短いベルハルトが割って入った。


「そっちの話は別のところでしてくれ。要件は何だ、ギルマス」


ギルドマスターは助かったとばかりに話を切り出した。


「『鋼の獅子』は帝国軍だと判明した。それと帝国軍がこちらへ向かってきているという情報が入った」

「何!やつらダンジョンを奪うつもりか!」

「帝国は以前から、我らの都市とダンジョンを狙っていたが、ついに動き出したんだ」


ベルハルトは怒りに震えていた。

ブリオニーも静かに闘志を燃やしているのが傍から見ても分かった。

ゼノアが考えに耽って何も言わないので、シリルが口を開いた。


「ゼノア姉ちゃん、戦争が始まるなら、さっさと街を出よう」

「そうね。ここが潮時ね」

「待ってください。人攫いも帝国の仕業と判明したのです」

「本当ですか?」「何だって!」


ギルドマスターの言葉に、ゼノアとシリルが反応した。


ギルドマスターは調査報告を説明した。攫われた多くの子供が帝国にいること、議員も関与していたこと、他にも買収、籠絡された議員がいたこと、そのため議会が帝国に操られていたことなど。

ワイバーン討伐や軍の壊滅も、全て帝国の策略だった。

そして、今回の調査で帝国の侵攻が閣議決定されたことも判明した。


「帝国は優秀な子を攫って兵士として育てているようです」


ゼノアの顔色が変わった。


「メルはこれからも狙われる可能性があると?」

「おそらくは……」

「許せない!」


シリルが激怒した。


「姉ちゃん、帝国を滅ぼしちゃおう」


皆が顔色を変えた、ゼノアがシリルの頭を殴った。


「痛てぇ! 暴力反対」

「シリル、冗談はよして。むやみに人を殺してはダメと、いつも言ってるでしょ」

「じょ、冗談ですか……ははは」


ギルドマスターとブリオニーは、この二人なら可能かもしれないと思った。


「ええ?だって以前、国を滅ぼしたって言ってたじゃん」

「滅ぼしてません!滅ぼしかけただけです!」


ゼノアがシリルを睨んで力説したが、他の者はドン引き状態だった。


「冗談ではなかったのか」


「こほん、ダンジョンと帝国軍にどう対処するか。ギルドマスターの考えを聞かせてください」


ゼノアが話題を変えてギルドマスターに振ったことで本来の話が始まった。


「もうすぐ教会の精鋭部隊が来ます。ゼノア殿と教会が争わないようにするには、ゼノア殿はダンジョンに潜ってもらった方が良いと考えます


「分かりました。私はダンジョンの帝国軍を阻止しましょう。」

「ボクも姉ちゃんと一緒にいく!」

「ならば『金の木漏れ日』もシリル様に同行させてください」

「ええ?いらないよ」

「罪滅ぼしをさせて頂きたいのです、シリル様」


シリルが迷惑そうにしたが、ゼノアがシリルの頭を撫でて笑った。


「ブリオニーさんにも手伝ってもらいましょう。さっさとダンジョンの方を片付けて、みんなで帝国軍を迎え撃ちましょう」

「姉ちゃんがそう言うなら、そうする」



ベルハルトがテーブルを叩いて立ち上がった。


「ギルマス、都市防衛の依頼を全冒険者に出してくれ」

「了解した。報酬は都市が負担する。ベルハルトはみんなを率いてくれ」

「分かってるよ。任せろ」



翌日、ゼノアたちと「金の木漏れ日」がダンジョンに入ると、ダンジョンは立ち入り禁止となった。

それを聞きつけ、冒険者ギルドの前には多くの冒険者が集まり騒然としていた。そこにギルドマスターと「金の竜爪」のベルハルトが現れた。

ベルハルトが力強く大きな声で語りかけた。


「帝国軍がこの街に向かって来ている」

「何だって」「本当かよ」


辺りは騒然となった。


「軍は壊滅して街を守るのは俺たちしかいない。俺はこの街が好きだ。自由が好きだ。帝国に支配されるなんて、まっぴらごめんだ」

「そうだ」「そうだ」


みんなが拳をあげ、拍手が起こった。


「逃げたい奴は逃げろ。自分の命だ、自分で決めろ。誰も止めないし、責めたりしない。俺は戦う!」

「俺も戦うぞ!」「街を、家族を守るぞ」「自由を守るぞ」


大歓声が起こり、辺りは熱気に覆われた。

ギルドマスターが手を挙げると、一気に静まり返った。


「防衛線に参加する者には都市から報酬が出る。武器、薬も可能な限り提供する。共に街を守ろうではないか!」

「やるぞ!」「帝国軍を叩きのめせ!」「俺たちの力を見せつけてやるぞ」


再び拍手と大歓声が起こり、辺りは熱気に溢れかえった。

帝国軍侵攻の話は一気に広がり、街はかってない危機に騒然となった。


しかし神託に告げられた本当の危機が、ダンジョン深くで目覚めようとしていることなど誰も知る由がなかった。

これで第六章は終わり。次回からいよいよ終章の第7章になります。

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