第46話 仲たがい
ゼノアは「聖女の秘宝」を持って帰ってきた。
会長のところに行き、すぐに秘宝に魔力を込め発動させた。金色の光が眩く輝き会長を包み込むと、虹色の光が次々に魔法陣を描き会長の体を覆った。それは女神の癒しとも違った、荘厳で神秘的な光景だった。やがて光が消えると、会長は自分で体を起こした。その顔色は健康そのものになっていて涙が溢れていた。
「ああ、全身に力が満ちてくるようだ。生き返った心地がする」
その言葉に誰もが、驚き、安堵し、涙を流した。
「これで大丈夫だと思いますが、後でシリルに確認させましょう」
「ゼノア殿、本当に感謝します」
「シリルたちはダンジョンですか?」
「はい、最近は4階でグレイハウンドを狩っているそうです」
「まあ、もう4階まで行くようになるんて。では私もダンジョンに行ってきます」
ゼノアはダンジョンの四階に降り立ち、ダンの血の匂いを嗅いだ瞬間、血の気が引いた。
「なんてこと! シリルは何をしてるの?」
ゼノアは焦って、全速力でダンの血の匂いの元に走った。
グレイハウンド20匹の群れを感知したので、すぐに威圧をかけ、近づいて「ドレイン」を念じて全てを倒した。
今にも死にそうなダンを見て、抱き上げ最高級回復薬を飲ませた。
そこにシリルが帰ってきた。
「よかった。姉ちゃんが間に合ったんだ」
しかしシリルはゼノアを見て、背筋が凍る思いだった。
金色の瞳が今まで見たこともないほど冷たく無情にシリルを見つめていた。
シリルは何も言えず、他の三人に癒しをかけていった。三人が意識を回復し、シリルはほっとした。
しかしゼノアは死にそうなダンを見て放心状態だったので、冷たい瞳のまま無言だった。
寒々とした静寂に包まれシリルは生きた心地がしなかったが、その静寂を破るようにダンが声をだした。
「ゼノア姉ちゃん、助けてくれてありがとう」
その言葉にゼノアははっと我に返って、ダンを強く抱きしめ涙を流した。
「ああ、良かった。本当に良かった」
ダルマリオ商会の部屋に戻ると、シリルが恐る恐る謝った。
「ご、ごめんなさい」
しかしゼノアは無視して無言だった。
いままで怒られたことはあっても、冷たくされたことはなく、シリルはショックで部屋を出ていった。
一方ゼノアはシリルを許せなかった。
もし今シリルと目を合わせたら、決別するかもしれない——そんな予感がした。
しかしシリルが嫌いではなかったから、どうしていいか分からずにいた。
一週間経ってもゼノアとシリルの冷たくぎこちない雰囲気は変わらず、四人組は悩んでいた。
ちゃんと説明し謝らなければと考え、ゼノアのもとを訪れた。
「ごめんなさい。ボクたちが悪いんです。シリル姉ちゃんは悪くないんです」
ダンがことの経緯を説明した。
「だからシリル姉ちゃんと仲直りしてください。そういしないとボクたち……」
そう言って四人は涙を流し出した。それを見てゼノアの心も動いた。
「心配をかけてしまったわね。シリルと話し合うわ」
それを聞いて四人は安堵して出ていった。
その夜、ゼノアはシリルを呼んで話し合った。
「シリル、しばらく別れましょう」
「えっ、そ、そんな……嫌だよ」
「正直に言うと、まだあなたを許せないの」
「どうしたら許してくれるの?」
「ごめんさい、私にも分からない」
シリルは今にも泣きだしそうになった。
「シリル、あなたを嫌いになったわけじゃないの」
「だったら……」
「でもあなたを見たら、許せない気持ちが強くなりそうで怖いの。だから時間をちょうだい」
「どれくらいの時間?」
「分からないわ。ダンたちの面倒は私が見るから、あなたは好きにして」
シリルは泣きながら部屋を出ていった。そして会長に出くわした。
「シリル殿、どうされました?」
会長は泣いているシリルを応接室に連れて行き、話を聞いた。
「ゼノア殿は嫌いでないと言われたのでしょう?」
「うん」
「ならば時間が解決してくれるでしょう」
「本当に?」
「ゼノア殿があなたこを大切にしているのは私にも分かります。だから信用して待ちましょう」
シリルはしばらく考えてから顔を上げた。
「ボク、待ちます。……ありがとうございました」
シリルはゼノアに認められ許してもらえるように頑張ろうと決心した。
翌朝シリルは冒険者ギルドの掲示板を見ていると、背後から声がかかった。
振り返ると冒険者ではなく、受付嬢だった。
シリルは久しぶりにただ酒が楽しめると期待していたのに、当てが外れて舌打ちした。
「チェッ、何か用?」
「ギルドマスターからお話があるそうです。こちらに来ていただけますか?」
どうせ暇だったのだ。面白い依頼なら受けようと考えて、受付嬢の後について行った。
応接室でギルドマスターが待っていた。
彼は単刀直入に話を切り出した。
「48階の攻略に手を貸して欲しい」
「いいよ」
シリルの即答にギルドマスターは笑顔になった。
「ただし、ある条件を飲んでもらいたい」
「ふ~ん、条件ね。どんな条件?」
「金等級パーティー「金の木漏れ日」にメンバーとして参加して欲しい」
「ならお断り。ボクひとりでやるから……いいよね?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。無断で攻略されては困る」
ギルドマスターは焦った。現在48階の攻略は2つのパーティーが競い合っている。
そのひとつ「金の木漏れ日」は古参のパーティーでギルドとの仲も良好で、ギルドとしては彼らに攻略の名誉と功績を与えたいと考えていた。
ただリーダーのブリオニーは神経質かつ慎重で、ギルドから助太刀を出しても、あまりうまくいかなった。そこでエルフであるシリルに目を付けたのだ。
「リーダーはハーフエルフでね、君と気が合うと思うがどうかな?」
「ハーフエルフ?」
シリルは初めて自分以外のエルフの話が出て興味が湧いてきた。
シリルが乗る気になってきたと見て、ギルドマスターはもうひと押しした。
「それと君のお姉さんから依頼されている調査も至急全力でやると約束する」
「姉ちゃんの依頼?」
「人攫いの件だ」
「ああ、あれか」
ゼノアの依頼に助力できたら、ゼノアの気持ちも変わるかもしれない、シリルはそう思った。
「分かった。引き受けるよ。姉ちゃんの依頼お願いね。絶対だよ」
ギルドマスターは安堵し、シリルにこれからの予定を告げた。




