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第44話 呪い

会長の寝室には、淡い夕陽が窓から差し込み、空気は重苦しい静寂に包まれていた。ベッド脇には、長男ドラン、長女ランセリア、そしてシリルの姿があり、親族たちは緊張した面持ちで会長を見守っていた。

ゼノアが駆け付けた時、丁度シリルが女神の癒しをかけ終わったところだった。


会長の呼吸が落ち着き、顔色が良くなったので、ドランはひと安心してシリルに礼を述べた。


「シリル殿がいて助かりました。感謝します」

「う、うん。どういたしまして」


シリルが焦りを隠しきれない様子で視線を泳がせるのを見て、ゼノアは訝しげに眉を寄せ、首を傾けた。


「シリル、何か気になることがあるの?」

「うん、完治していないみたい。まだ変なしこりが残っている感じがするんだ」


シリルの言葉が耳に届いた瞬間、ドランの顔から血の気が引いた。彼は拳を握りしめ震えていた。その様子が尋常でなかったので、ゼノアは彼に尋ねた。


「ドランさん、病気の詳しい話を聞かせて下さい」


ドランは別室にゼノアだけを連れて、話をしだした。


5年前から会長は謎の病気にかかった。教会の司祭にお願いして女神の癒しをかけてもらい回復するが、3か月すると再発した。

次第に体力が衰えていき、教会で詳しく調べてもらったところ呪いではないかと診断された。

商売柄、敵は多く恨まれることもあり、今までも呪いをかけられたことがあったが、教会で女神の癒しをかけてもらい解呪できていた。

しかし今回はなかなか解呪できず長引いていた。大司教にお願いして、大規模な癒しの儀式を行い、これで大丈夫だろうと安心していたのに、また再発したのだ。


ドランは苦渋に満ちた面持ちで話を終えた。


「教会総本部には、あらゆる呪いを解く秘宝があるはずですが……」


ゼノアの言葉にドランは驚いた。


「どうして秘宝のことを? 教会でも大司教以上でないと知らない秘宝であり、他言無用と言われたのですよ」

「理由は聞かないでください」


「分かりました。それで秘宝は門外不出のため、教会総本部に父を連れ行く必要があるのですが、今の父の体力ではとても無理です」

「私の古い友人が、同じような呪いを解く魔術具を持っていましたので、借りてきて試してみましょうか」


「そ、そんな魔術具が……本当にあるのですか?」


ドランコの声は震え、目は大きくに見開かれていた。


「あるのなら、どうか……どうかお願いします!」


彼は、最後の望みを懸けるように、必死な声でゼノアに懇願した。





その夜ゼノアは旅立つことをシリルに告げた。


「シリル、2か月ほど留守にするから、みんなの事、会長の事よろしくね」

「姉ちゃん、どこに行くの?」


「例の秘密の隠れ家よ」

「今度は何を取りに行くの?」


「会長さんの呪いを解く魔術具よ」

「そんなのまであるんだ。なるべく早く帰ってきてね」


こうしてゼノアは迷宮都市を出ていった。




目指すは、かってカナン帝国の神殿があった場所だ。

1か月休まずに飛び続け、辺鄙な深い山々に囲まれた神殿の跡地に降り立った。

ゼノアは誰もいないことを確認すると、指輪をはめ魔力を込めた。

すると地面に魔法陣が現れた。それは勇者一行の大賢者が作った転移魔法陣だった。


次の瞬間、大きな部屋の中に転移していた。

元は大賢者の秘密の隠れ家で、今はゼノアが財宝や貴重品を隠して保管するために使っていた場所だ。


「さて、どこに仕舞って置いたのかしら?」


雑に置かれた箱を次々に開けていっては中を調べた。


「あったわ! 聖女の秘宝」


それは手の平大の魔術具だったが、聖女と大賢者によって造られた、この世に2つしか存在しない貴重なものだった。

女神の許しを得て造られたもので、どんな病気も治し、どんな呪いも解くことができる秘宝だ。

ただし莫大な魔力を消費するため、実際に使えるのは聖女と大賢者とゼノアしかいなかった。

ひとつは聖女が持ち、後に教会総本山に引き継がれた。もうひとつは大賢者が持ち、その死後ゼノアに託された。


「せっかく来たからダンたちにも何か持って帰りましょう。そうだわ、薬も作っておきましょう」


ゼノアは調合室に向かい、レシピを広げて材料を確認して、部屋の中を探し回り、薬を作り始めた。


「久しぶりだから緊張するわね」


回復薬、状態異常を治す薬、魔力を回復する薬、どれも最高級品が出来上がった。

ついでに炎や雷が出る攻撃用の魔石、風や水や氷の守りを出す防御用の魔石、飛行用の魔石、毒と麻痺や睡眠などの罠用の魔石を作った。


「ちょっと作りすぎたかしら? でもダンのためだからいいか」


久しぶり見つけた勇者の子孫に、ゼノアは親馬鹿全開になっていた。





ゼノアが旅立ってから、シリルは四人を引き連れてダンジョンでボア狩りを続けていた。

シリルはゼノアから、癒しを使うのは良いが手助けは極力しないこと、ボア5匹の群れを倒せるまでは4階に行かないことを約束させられていた。


今日も彼らは5匹のラージボアと戦ったが、勝てなかった。

次々に波のように押し寄せるボアの突進に、回避するだけで手一杯で攻撃ができなかった。

そして体力がなくなり、危うくなるとシリルが全部蹴り殺してしまった。


「ああ、ダメだ。どうしたらいいんだろう?」

「4匹までならいけるのに……」


12歳の子供四人だけでボア4匹を倒せるのは、実は凄いことだった。

彼らと同じ年齢の子供は2階で狩りをするのが精一杯だったのだから、悲観することではなかった。

しかし早く4階に行きたくて彼らは焦っていた。


「シリル姉ちゃん、どうしたらいいと思う?」

「とにかく避けて攻撃するしかないよ」

「……」


ダンがシリルに尋ねるが、欲しい答えは返ってこなかった。

シリルはそうやって生きてきて、それ以外を知らなかったので仕方ないことだった。


ゼノアがいなくなって1か月経った時、彼らはボア5体を諦めて、4階に行くことを決めた。

4階の魔物はグレイハウンドだ。新しい魔物と戦って、新しい可能性を見つけたかったのだ。

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