第42話 ダンジョンの洗礼
「黒と金の風」は毎日午前中ダンジョン2階でラージラット狩りをした。
午後メルとアルバは家の手伝いをし、ダンとガダルは訓練場で訓練をした。
一週間もすると四人の連携は上達し、ゼノアは3階へ降りることを許可した。
「やっと3階か。ラージラットはもう飽きたよ」
「3階はホーンラビットとラージボアだね」
「ボクらなら楽勝さ」
新人四人組は自信に満ち溢れていた。
通路を進んでいくと、ゼノアが指をさした。
「ホーンラビットが3体。来るわよ」
メルが水壁を展開し、アルバとガダルが盾を構え、ダンが剣を構えた。
ホーンラビット3体は水壁にぶつかり勢いが削がれた。顔を出したところを盾で叩かれ、剣で切られ、1体が死んだ。
しかし2体は地面に着地すると、素早く盾の間をすり抜けメルに飛びかかった。
「しまった」「きゃあ」
メルにぶつかる直前にシリルが2体を斬り捨てた。
「初めての魔物ときは慎重に動きをよく見て。メルを守ることを最優先に」
ゼノアに指摘され、四人のさっきまでの自信は消し飛んでしまった。
「ラージラットより速くてタフだね」
「ホーンラビットを甘く見てたよ」
「うん、慎重にいこう」
「またホーンラビットが3体来るわよ。気を引き締めて」
四人はホーンラビットの素早い動きに翻弄されながらも、何とか討伐することができた。
「ふう、何とか倒せた」
四人は安堵して、さらに進んだ。
「ラージボアが1体来るわ。気を付けて」
ゼノアが声を上げると、大人の人間より大きなラージボアが突進してくるのが見えた。
ラージボアは突進し、軽々と水壁を突破した。
次の瞬間、アルバが盾ごと吹き飛ばされ、メルに迫った。
メルの直前でゼノアがラージボアを手で止めて、シリルが剣で一刀両断した。
メルは恐怖に腰を抜かし、アルバは左腕と肋骨を骨折し痛みに呻いていた。
「シリル、アルバに癒しを」
シリルが手をかざすと光が溢れだし、アルバの全身を包んだ。光が消えるとアルバは嘘のように痛みがなくなり立ち上がった。
女神の癒しを使える者はただでさえ少なく、冒険者ではほとんどいないとても貴重な存在だったのでアルバたちは驚いた。
メルが目を輝かせて尋ねた。
「シリルお姉さんは、女神の癒しを使えるんですか?」
「もちろん、使えるよ。」
シリルは得意げに胸を張った。
「ゼノア姉ちゃんは使えないけどね」
と付け加えると、ゼノアは少し悔しそうに肩をすくめた。
「まだラージボアを相手にするのは早かったみたいね」
「どうしたらいいんだろう?」
「躱して戦えばいいじゃん」
アルバの疑問にシリルが事も無げに答えた。
「そんな簡単に言わないでください」
メルが反論したが、シリルは当然と言わんばかりの顔をした。シリルはそうして戦ってきたし、それ以外のことは知らなかったから当然だった。
そこでダンが提案した。
「ボクがグレーターボアで訓練した方法をやったらどうだろう?」
ゼノアはポンと手を叩いた。
「それがいいわね。とにかく回避する訓練をしましょう。シリル、ボア1体を釣って来て」
まずはダンが手本を見せた。
ダンがラージボアが突進してきたところをギリギリで回避し、ゼノアがラージボア受け止めた。
そして近くに投げた。
ラージボアはすぐに起き上がりまた突進してきた。
これを疲れるまで繰り返した。
「シリルがいるから怪我しても大丈夫よ。怖がらずに、ギリギリで回避して。遅くても早くてもダメよ」
ダン以外の三人は、「怪我しても大丈夫」と言われても、痛いし怖いしで、最初は腰が引けてギリギリ回避はできなかった。
しかし数をこなすうちに恐怖はなくなり、なんとかができるようになり、その日は終了となった。
「ダンが強い理由が分かった気がするわ」
「うん、癒し手がいないと無理だよね」
「お姉さんたちがいてくれて、ボクらは幸運だよ」
三人は明日からの訓練にも希望が持てて元気を取り戻していた。
翌日は、ボア1体を回避して、ゼノアがボアを手で止めたところを、みんなで攻撃することになった。
メルはその時水壁を展開するよう指示された。
1週間すると動きに余裕が出てきたので、ラージボア1体との戦闘をすることになった。
みんなが緊張する中、シリルがラージボア1体を釣ってきた。
メルが水壁を展開し、男の子たちは水壁の後ろで息を呑み、次の瞬間に集中していた。
ラージボアが突進してくるとギリギリまで待って回避すると同時に3人がボアの脚にきる斬りつけた。
3人のうち1人は攻撃を当てることができた。
これを繰り返して行った。
そしてラージボアは倒れ、3人で急所の首を斬りつけ、ついにラージボアの討伐に成功した。
「やったぁ!」
四人が勝鬨を上げた。
初めてラージボアを討伐した瞬間、四人は抱き合いながら歓喜の涙を流した。
ゼノアとシリルが拍手をして褒め称えた。
その後、同様にラージボア1体ずつ倒していき、10体で終了となった。
男三人は手応えを感じて、大いに喜んでいたが、メルは浮かない顔をしていた。
「火や雷の魔法が使えたら良かったのに」
そんな呟きが聞こえてきて、ゼノアはメルの頭を撫でた。
「水魔法は冒険にすごく役に立つのよ」
「でも戦いに役に立っていなくて、ちょっと……」
「あなたの水壁は、このパーティーの要なの。焦らずに鍛えてきけばいいわ。そうね、魔法の練習方法を教えてあげる」
ゼノアは体内の魔力を感知し、制御し、圧縮して増やす方法を教えた。
「毎日コツコツ練習してみて。時間はかかるけど必ず強くなるから」
「はい、頑張ります」
メルはゼノアに励まされ頑張ってみようと思った。
ボア1体との戦闘訓練が一週間続き、メルが水壁を2つ瞬時に出せるようになった。
いよいよボア2体へ挑戦する時がきた。




