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第39話 初心者講習

快晴の清々しい日、街行く人々は心地よい気分に包まれていた。初心者講習会に参加する者たちも、初めての経験に胸を躍らせていた。だが、ひとりダンだけは恥ずかしさのあまり俯いていた。


ダンの両脇には絶世の美女と美少女が陣取っていた。

ゼノアは生まれて初めての初心者講習会にワクワクした。

一方シリルは以前受けたことがあるものの、上の空で全く内容を覚えていなかったので、今回は真面目に受けようと考えた。

しかし、他の参加者たちには、最年少のダンを心配する保護者のように映っているようだった。

彼女たちに羨望ぜんぼうの眼差しを向ける者もいたが、ほとんどは「情けない奴だ」と失笑していた。




午前の講習が終わると、ダンは涙目で部屋を飛び出した。


「姉ちゃんたちなんか、嫌いだ!」


彼の突然の「嫌いだ」宣言に、ゼノアとシリルは面食らい、お互いに顔を見合わせて首を傾けた。


「いったい急にどうしたのかしら?」


ゼノアが不思議そうに呟いた。

残念ながら、人間の常識に疎く、常識外れの二人には、ダンの気持ちは全く理解できなかった。




午後の実技講習が始まる。


ダンは「一人で受けるから、見に来ないで!」とゼノアとシリルに懇願した。

彼の懸命な頼みを受け、二人は仕方なく訓練場の外で待つことにしたが、やはりダンの活躍を見たくて、こっそり中に入ってしまった。

絶世の美女、美少女の登場に、当然騒めきが起こった。


ダンはすぐに恥ずかしさで顔を真っ赤にし、俯いてしまった。


「姉ちゃんたちの、バカ!」


心の中で叫ぶ彼を、後ろから肩を叩く声がした。


「君の番だよ」

「あっ……」


恥ずかしさに手が震え始めたが、次第にその感情は怒りに変わった。


「あの子、もしかして泣いてない?」「今までの訓練をみて怖くなったのかな?」「震えてるぞ、情けないな」


そんな周囲の囁きが耳に入るが、ダンは気に留めなかった。剣を構える彼の目は真剣そのものだ。

教官も剣を構え、彼に問いかけた。


「準備はいいか?」

「姉ちゃんたちの、バカ!」


そう呟くや否や、突進して突きを出したが、教官は軽く躱した。

互いに剣を構え直したが、再びダンが素早く突きを出した。


さきほどと同様に教官は躱したが、ダンは素早く横に剣を振って胴を狙った。

教官は避け切れないと判断し剣で受けた。


今度は教官が受けた剣を返してダンの手を狙ったが、ダンは剣で受け流した。

こうした攻防が繰り返されたが、ダンの剣が弾き飛ばされて終了した。


「12歳で、これほどの剣の使い手は初めてだよ。君ならダンジョンに入っても大丈夫だろう。後で許可印を出すから受け取るように」


教官はダンの手を取って褒めた。周りから拍手が起こった。


「あいつ凄い!」「12歳だって、とんでもないルーキーが現れたな」


「ところで君は剣を誰から教わったのかな?」

「ゼノア姉ちゃんです」


ダンは、手を振っているゼノアとシリルを指さした。


「良い師匠に巡り合えて、君は幸運だったね。これからも精進するように、期待しているよ」


教官の言葉に、ダンは心が躍り、ゼノアとシリルに大きく手を振った。




講習生たちが訓練場を出ていこうとした時、入口から大きな声が聞こえた。


「そこの黒髪と金髪のお嬢さん、ワイバーンの大群を倒したというのは本当かい?」


30歳前後の威風堂々とした男がゼノアとシリルを睨みつけていた。


「おい、ベルハルトだ」「『金の竜爪』リーダーだ」「さすが金等級は貫禄があるな」


ゼノアは面倒事になりそうなので、知らぬ顔で出て行こうとしたが、シリルが自信満々に答えた。


「そうだけど、……だから何?」

「シリル、喧嘩を売るのはやめてくれない?」


「え? ボクは喧嘩を売ってないよ。向こうが……」

「もう! なら喧嘩を買わないでちょうだい」


ベルハルトがシリルを睨んだ。


「あのワイバーンは元々俺たち「金の竜爪」が狙っていたんだ。ギルドから禁止命令が出たんで諦めていたのに、横から取られたんだ」

「それはご愁傷様。でも魔物は誰のものでもないでしょ。早い者勝ちだよね?」

「シリル! それ以上は止めなさい」


男の顔は真っ赤になり、怒りが滲んでいるのが明らかだった。


「本当にワイバーンを倒す実力があるのか、ここで俺と勝負して実力を見せてみろ!」

「いいよ、勝負だ!」


ゼノアは思わずシリルの頭を叩いた。


「痛てぇ! 暴力反対!」

「シリル、あなたはここで待ってなさい。私が相手をするわ」

「ええ? ボクにやらせてよ」

「暴走するのが目に見えるから、ダメ」

「そんな~」


金等級相手ならシリルが負けることはないが、戦いに興奮して必ず暴走するだろう。

そうなれば訓練場は大惨事になったしまう。ゼノアは自分が出ることにした。

ギルドの職員が慌ててやってきてベルハルトを止めようとしたが、ベルハルトは鼻で笑った。


「訓練場が壊れたら、全額弁償するから心配するな」


もとから職員では金等級冒険者を止めることなどできなかったので、ただオロオロするばかりだった。




ゼノアとベルハルトが中央で模擬戦用の剣を持って相対し、ベルハルトが上段に剣を構えた。


「悪いが、腕の一本は覚悟してもらう」


ベルハルトが目にも留まらぬ速さで剣を振り下ろすと、剣が空気を切り裂く音が響き、地面に衝撃が伝わった。

決まったと誰もが思ったが、ゼノアが片手で剣を掴んでいた。

ベルハルトは渾身の一撃を、片手で受け止められたことに驚愕した。

どんなに力を入れても、彼の剣はびくとも動かず、冷や汗が額から流れ落ちた。


「な、なんだこれは」


ゆっくりとゼノアの剣がベルハルトの喉元に突きつけられ、少しづつ喉に剣が押し当てられ、彼の脳裏に『死』がよぎった。


「ま、参った」


ようやく声を絞り出し、ベルハルトは崩れ落ちた。ゼノアは彼の耳元で囁いた。


「二度と私たちにちょっかいを出さないでね。次は命の保証はないわよ」


ベルハルトが頷くと、ゼノアは優雅に立ち去っていった。


「漆黒の魔女」


どこからともなく、そんな囁きが聞こえた。

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