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第38話 迷宮都市ザーランド

第5章開始。

エトニアは九つの都市が連合した国で、それぞれが独立した政治経済を持つ都市国家である。

その中でも最も栄えて力を持つのが、迷宮都市ザーランドだ。


ザーランドはダンジョンを中心に栄えてきたので迷宮都市と呼ばれている。

冒険者や商人、行政が一体となり、活気に満ちた都市国家を築き上げた。

よって都市の運営は、冒険者ギルドや商人ギルドなどの各ギルドと行政庁による合議制で行われていた。




ザーランドの街中を深々とフードをかぶった男が歩いていた。

盗賊団の首領である。

路地裏の建物の前で辺りに人がいないことを確認すると、建物に入っていった。


「お帰りなさい。首尾はどうでした? ドナシェル隊長」

「当初の目的は達成した。しかし予想外の障害があって損失も大きかった」


「予想外の事は仕方ないでしょう。任務完了なら帝国に戻りますか?」

「ああ、帰国の手配を頼む。ところでダンジョンの方はどうだ?」


「さすがに攻略は難しいです」

「帝国に帰ったら増援をお願いするとしよう」

「そうしていただけると助かります」


ドナシェルはタバコに火を付けて、黒髪黒服の女のことを思い出していた。

迷宮都市軍とタダン軍を壊滅させる当初の目的は成功した。

しかし黒髪黒服の女は予想外だった。

殺したと思ったのに生きていた。

尋常でない威圧放ち、ワイバーンをあっという間に倒した力、今後帝国の障害になるのは確実だった。

本部にできるだけ早く報告しなければと考えていた。



タダンの災厄から二週間後、頑丈な高い城壁に囲まれた、迷宮都市ザーランドの城門に一台の馬車が並んでいた。

馬車から少女と男の子が勢いよく飛び出し、目を輝かせて城壁を見つめていた。


「シリル姉ちゃん! 凄い。こんなでっかい城壁、初めて見た」

「ボクも初めてだよ」


「シリル、いい歳して子供と一緒にはしゃがないの」


咎めるような口調で、もうひとり女性が馬車から出てきた。


周りの者たちは、二人の女性に目が釘づけになった。

ひとりは金色の瞳に、長い黒髪に黒尽くしの服装、グラマラスな妖艶な絶世の美女。

もうひとりは短い金髪に銀のティアラ、翠の瞳、白の服装にスラリとした体形の気品に満ち溢れた美少女エルフ。

あちらこちらで騒めきが起こったが、二人は何食わぬ顔で馬車とともに門をくぐっていった。


中央大通りには、石造りの壮大な建物が立ち並び、さまざまな商人や観光客、そして馬車が賑やかに行き交っていた。

ダンにとって、タダンの街でも十分都会だったが、それとは比べものにならない大都会に目を回すほど興奮していた。

シリルも久々の大都会に胸を躍らせ、そんな二人をゼノアは微笑ましく眺めていた。


ダルマリオ商会の玄関前に、商会長の長男で店長をしているドランが一行を出迎えた。


「おかえり、ランセリア。待っていたよ」

「ただいま兄さん」


三歳の幼子を抱いたランセリアが、涙を浮かべドランと抱き合った。


「ゼノア殿、今回は本当にありがとうございました。父が待っていますので、どうぞお入りください」


広い応接室は、高価な様々な調度品で飾り付けられ豪華に彩られていた。

そのソファーに病み上がりで顔色の良くない老人が座っていた。

ダルマリオ商会の会長ボーゼである。

ボーゼはランセリアと孫娘を抱き、涙を流して喜んだ。


報酬の話になって、ゼノアはダンを見つめた。


「この子、ダンの後見人になっていただけませんか?」


ゼノアが保留にしていた話を持ち出したので、ダンが驚いた。


「ボクはお姉ちゃんたちといたい!」

「ダン、私たちはワイバーンの大群のような魔物と戦っているの。危険すぎて子供のあなたを連れてはいけない」

「でも……」


ダンは今にも泣きそうになったのを見て、会長ボーゼが助け船を出した。


「ダン君、冒険者になりたいかい?」

「はい! 姉ちゃんたちのような強い冒険者になりたいです」

「うむ、ならばこの街で冒険者として頑張ってみてはどうだろう。お姉さんに認めてもらえよう、ここで勉強し強くなるのだ」


ダンは俯いて考えだした。


「ゼノア殿、ダン君、ここは個人の意思を尊重する街だ。性急に決めずに、じっくりと話し合って欲しい」

「ええ、分かりました。私も急ぎ過ぎました。よく話し合うことにします」


ゼノアもボーゼの言い分に納得し引き下がった。


「ここでは私共が皆様の面倒を見させていただきます。どうか我が家と思って滞在して下さい」


そう言ってペンダントをゼノアとシリルに渡した。


「これは我が一族の印です。これを見せれば軍の施設以外は、どこでも入れます。どうかお納めください」


ゼノアたちは屋敷の一室を当てがわれ、そこで寝泊まりすることになった。






翌日、ダンの冒険者登録をするため冒険者ギルドに向かった。

中央大通りを真っ直ぐ北に進んだところ、街の中心部に行政庁舎があり、その右隣に冒険者ギルド、左隣りに商人ギルドがあった。さらに北に進んだ山の麓がダンジョンの入り口だった。


迷宮都市に相応しく冒険者ギルドは石造りの立派な建物だった。

奇麗な彫り物が施された豪華な、重厚な扉を押し広げて三人は中に進んでいった。

中は大勢の冒険者たちで賑わっていたが、二人の女性が現れると場は一気に静まり返った。

誰かが囁いた。


「黒髪と金髪の二人の女……まさかタダンの……」「あの美女がワイバーンの大群を倒したのか? 信じられん」


既にタダンでの活躍は、ここでも有名になっていたので皆の注目の的になっていた。


シリルが掲示板に向かうのをゼノアが引き留めた。


「シリル、今日は大人しくしてね。分かってるでしょ?」

「分かってるよ。信用してよ」

「信用できないから、念を押してるのよ」

「ひどいと思わない、ダン?」

「ダン。シリルの真似をしてはダメよ」

「ええ? それは酷すぎるんじゃない、姉ちゃん」


シリルは不貞腐れたが、ゼノアはお構いなしに彼女を引っ張って受付に向かった。


「この子の冒険者登録をお願いします」


受付嬢は、シリルに用紙とペンを渡した。

それを見て、三人は顔を合わせて笑ってしまった。

ゼノアは笑いながらダンを前に出した。


「ごめんなさい。この男子の方です」


受付嬢も思わず笑い、用紙とペンをダンに渡した。


「失礼しました。では改めて、こちらに記入してください」


ダンは一番下の階級、赤木等級いわゆる木級の冒険者になった。

明後日に行われる初心者講習を受けることが決まり、三人はギルドを出た。


ダンは赤色の木でできた冒険者証を何度も眺めては、嬉しそうにはしゃいだ。

こうして三人の新しい生活が始まった。

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