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第36話 タダンの災厄

迷宮都市の軍隊とタダンの軍隊が合同でワイバーン討伐に向かっていた。

盗賊団がゼノンたちによって壊滅させられたおかげで、指揮官は十分な余力を持ってワイバーンに立ち向かえると確信していた。


山々を一日かけて進み、谷間に到着した。

先行した斥候の報告によれば、この先の山の中腹に、ワイバーンの巣があるらしい。

タダン軍の指揮官はワイバーンの縄張りに入っていなことを確認すると、号令を発した。


「ここで休憩とする。各自食事の準備をせよ。その後はワイバーンとの戦闘だ」


武器を降ろし、食事の準備を進めている最中、空が急に暗くなった。

指揮官はふと見上げると、多数のワイバーンが急降下してきていた。


「な、なぜだ……!? 敵襲!」


兵士たちは慌てて武器を手に取ろうとしたが、既に遅かった。

ワイバーンたちが地上に降り立ち、兵士たちを次々に蹴散らしていった。


指揮官は、体勢を立て直すため号令を発した。


「くそ、ここでは弓が使えない。谷の出口へ! 谷を出ろ!」


多くの兵士が谷の出口へ向かっていったが、出口からも悲鳴が聞こえてきた。


「今度は何だ!」

「出口の方からグレイハウンドの群れが襲ってきました」

「な、何だと!」


一方谷の入口の方で迷宮都市軍も同様な事態が起きていた。

タダン軍と迷都市軍の兵士は次第に数が減っていき、ついには壊滅した。


その光景を、ワイバーンに乗った盗賊団の首領が見ていた。


「これでタダンと迷宮都市の軍は片付いた。目的を果たしたが、せっかくだ、タダンの街に打撃を与えておくか」


そう言って彼は、ワイバーンの巣に向かった。



その頃ゼノアとシリルは、タダンのダルマリオ商会に戻っていた。


トーマンとランセリアはゼノアの話を聞いて絶句していた。


「軍は負けてワイバーンの大群が押し寄せてくると言うのですか?」

「その可能性が高いです。一刻も早くタダンを出て下さい」


トーマンは首を横に振った。

「とても信じられません」

「相手はただの盗賊ではありません。とても用意周到で、ワイバーンも操っています。」


「トーマン、私はゼノアさんを信じます。街を出ましょう」


ランセリアが決断すると、トーマンは従うしかなかった。


「分かりました。従業員と貴重品を持って街を出るとしましょう」


トーマンは、すぐに準備にかかった。





翌日荷馬車3台に従業員と貴重品を乗せて、馴染みの冒険者に護衛を頼みトーマンたちはタダンの街を出た。

ゼノアとシリルは先行して偵察をしていた。


すぐに遠くからワイバーンの大群が来るの見えた。


「ずいぶん早いお出ましね」

「うわぁ、50匹くらいいるね」


「トーマンたちのところに引き返しましょう」

「ここで全部倒さないの?」


「倒すのはタダンの街にワイバーンが着いてから」

「あはは、やっぱ根に持ってるんだ」

「少しは恐怖を感じないと、反省しないでしょ?」

「戦えるなら、どっちでもいいや。じゃあ戻ろう」


ゼノアとシリルはトーマンのところに戻っていった。



トーマンたちは街から離れた森の中に隠れていた。

近づいて来るワイバーンの大群に、彼らは戦々恐々としていた。


「ワイバーンの大群をこんな真近で見るとは思いませんでした」

「ゼノアさんの仰る通り、襲ってきませんね」

「先頭がボスのワイバーンで、従魔だからです。群れ全体がよく躾けられていますね」

「姉ちゃん、そろそろ行こうよ」

「そうね。では、行ってきます」


ゼノアたちは、空を翔けるワイバーンを追いかけていった。


「シリルは街に降りたワイバーンを倒してちょうだい。私は盗賊団の首領を捕まえるわ」

「やっほぉ! やっとワイバーン狩りだ!」




先頭の従魔のワイバーンに乗っていたドナシェルは、タダンの街の上空に入ると、全てのワイバーンに攻撃を命じた。

だが、その瞬間、従魔のワイバーンが急旋回し、急上昇を始めた。

何かが下から迫っていることに気付いたドナシェルは、思わず下を見て驚愕した。

確かに自分が殺したはずの黒い女が、生きていたのだ。


「化け物め!」


そう呟くと、そのまま急上昇し逃げることを選択した。

ゼノアはドナシェルを捕らえようと急速突進したが、周りのワイバーンに阻まれて、一歩届かなかった。


「残念、逃げられたか。とても素早い判断ね。やはりただ者ではないわね」


ゼノアは悔しそうに呟いたが、すぐに気を取り直して、周りのワイバーンに飛びかかり「ドレイン」をかけて街の外に投げ捨てた。


タダンの街はワイバーンの襲来で大騒ぎになっていた。

人々は我先に逃げ出し、城門に押しかけていた。


「城主様、今すぐお逃げください」

「軍はどうしたのだ! 討伐したのではなかったのか?」

「軍がどうなったか分かりません。とにかくお逃げください」


城主が城の外に出た時、目の前に一体のワイバーンが降り立った。

城主は悲鳴を上げて腰を抜かした。

ワイバーンが大きな口を開けて城主を飲み込もうとした時、城主は死を覚悟した。


次の瞬間、ワイバーンの頭が爆発し、黒尽くめの女が現れた。

先日「剣聖」を名乗った無礼な女だ。


「ワイバーンの卵を盗むと、このような大惨事になることがお判りいただけましたか?」


ワイバーンの血にまみれた金色の瞳が怪しく光る中、城主はただ頷くしかなかった。

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