第34話 タダンの城主
ゼノアがダルマリオ商会に戻ってくると、トーマンが待ち構えていた。
「実は、さきほど城主様の使いの者が来たのです」
ゼノアとシリルは思わず顔を見合わせた。
城主から呼ばれる理由が分からなかった。
「シリルさんが暗殺ギルド壊滅に貢献したので、明日城で表彰したいとのことです」
「シリル、あなたそんな事をしていたの?」
「ボク、知らないよ?」
ゼノアは驚き、シリルは困惑した表情を浮かべた。
そこにトーマンがポンと手を叩いて説明した。
「シリルさんが、ガニマ一家と喧嘩になって地下牢に入れられた時です」
「シリル! あれほど注意したのに喧嘩したの?」
「トーマンさん、言わないって約束したじゃん! ひどいよ」
「あっ、そうでした。申し訳ありません」
シリルは怒りを露わにし、抗議の言葉を口にした。
トーマンはそれに対して恐縮しきりで、深々と頭を下げて謝罪した。
シリルはゼノアに、その時のことを説明した。
「そしてボクが地下牢にいる時、暗殺されそうになって返り討ちにしたんだ」
トーマンが説明を付け加えた。
「それで暗殺ギルドのメンバーを捕らえることができ、軍が一気に動いて壊滅させることができたそうです」
「そう、それはお手柄ね。お仕置きは無しにしてあげましょう」
「ふう、良かったぁ」
ゼノアは笑顔を見せ、シリルは安堵した。
「でも、どうして暗殺ギルドに狙われたのかしら?」
ゼノアが首をかしげると、トーマンの顔色が真っ青になり。冷や汗が流れていた。
「すみません、それは私のせいです」
ゼノアとシリルは、目の前の状況に困惑していた。
トーマンが恐る恐る口を開いた。
説明を聞いた後、シリルは呆れ、ゼノアは少し怒り投げやりになっていた。
「そんな理由で暗殺者に狙われたの? ちょっとひどくない?」
「許してくださいと言える立場ではないですが、どうか命だけはご勘弁を……」
「シリルが被害者だから、あなたが罰を決めていいわ」
「初めて暗殺者と戦えたから、正直どうでもいいかな」
「もう、あなたは本当に戦闘狂ね」
ゼノアは深い息を吐き、頭を少し振った。
あまりにもシリルの無邪気さに呆れるような表情だった。
しばらく考え込んだゼノアは、トーマンを真剣に見据えて言った。
「証文を書いてください。助力を求められたら必ず応えるという証文を」
トーマンは驚きつつも頷いた。
「わ、分かりました」
シリルは首をひねり、ゼノアに尋ねた。
「それって、具体的にどういう意味があるの?」
ゼノアは微笑みながら答えた。
「ミミやダンの将来役に立つかもしれないわ」
シリルはその言葉に目を輝かせ、感心した。
「なるほど、そう言う使い方があるのか」
ゼノアとシリルの表情に笑顔が戻ると、トーマンも安堵の息をついた。
翌日、ゼノアとシリルは城主の招きによって謁見の間に通された。
黒髪に黒いドレスの妖艶な美女と金髪の美少女エルフに誰もが「ほお~」と感嘆の声を上げた。
城主は20代前半の若者のはずだが、小太りして不健康な体形をしていた。
彼はシリルを見て、目を輝かせた。
「そなたが暗殺ギルドを捕まえたシリルという冒険者か、噂より美少女ではないか?」
そしてシリルを舐め廻すように見つめた。
「そなた我の近衛騎士にならぬか?欲しいものがあれば何でも申してみよ」
周囲の者が騒めいたが、シリルは嫌そうな顔をして答えた。
「そんな下らないもの要らない。ボクが好きなのは自由さ!」
周囲の者はさらに騒めき、ひとりの騎士が前に出た。
「な、なんと無礼な!聞き捨てならん!城主様、この者との決闘をお許しください」
「シリルとやら、近衛騎士団長に勝てば無礼は許そう。負ければ我の近衛騎士となれ」
城主は厭らしい目つきで笑っていた。
二人には練習用の刃引きの剣が与えられた。
ゼノアが誰にでも聞こえる声でシリルに声をかけた。
「シリル、殺さないように手加減を忘れないでね」
近衛騎士団長は顔を真っ赤にして怒った。
「バカにするな!」
二人は謁見の間の中央で対峙し、シリルが笑って挑発した。
「どこからでもどうぞ!」
「どこまでもバカにして!」
近衛騎士団長は最速の突きを繰り出した。剣がシリルに刺さったと思われたが、それは残像だった。
気づいた時には、彼女は剣の上に乗っていて、彼の喉元に剣を突き立てていた。
シリルは涼し気に微笑んだ。
「ボクの勝ち!」
ゼノア以外は何が起こったのか理解できなかったが、金髪の少女の圧倒的技に見惚れてしまった。
会場から拍手が少しづつなり、やがて会場を埋め尽くす拍手となった。
ゼノアがゆっくりと近衛騎士団長の前に歩いてきて、剣を取った。
そして優雅に一礼した。
「今から剣聖の技をお見せしましょう」
ゼノアはシリルに相対して剣を向けた。
「シリル、久しぶりに剣の稽古をしましょう。でも力は半分に抑えること、よくて?」
「わお!姉ちゃんと剣の勝負なんて何年ぶりかな?ワクワクするな」
「力半分よ。さあ、いくわよ」
二人が剣を構えた瞬間、剣が激しくぶつかり合う轟音と共に、周囲を巻き込む強烈な風が沸き起こった。二人の剣の動きは目を見張るほど素早く、人の目には追いつけないほどだった。観衆は信じられない光景に呆然と見つめるばかりだった。剣が止まった時、剣は真っ二つに折れ散らばっていた。
ゼノアは城主に真剣な眼差しを向けた。
「このような剣を持ってしても、ワイバーンの大群の前には無力です。城主様、ワイバーンの卵を持ち込み、育てて従魔にしようなどと考えないよう御忠告申し上げます。」
会場は騒然と化し、囁き合う声が起こった。
「ワイバーンの卵?」「ワイバーンの大群が来るのか?」
城主は顔を真っ赤にして怒り狂った。
「無礼者め! 近衛兵、この者を捕らえよ!」
ゼノアが一歩進む。
取り囲む近衛兵たちは一歩引き下がる。
ゼノアの一歩一歩が、まるで刃を研ぐような緊張感を漂わせていた。
彼女の動きに観衆は息を呑み、近衛兵たちはじりじりと後退していった。
ゼノアとシリルはそのまま城を後にした。
「姉ちゃん、さっきは久々に怒ってたね。」
「ええ、あんな馬鹿城主のために多くの人の命が危険にさらされるなんて、怒りたくもなるわ。ワイバーンは彼らに任せましょう。痛い目を見ないと理解できないでしょうから」
「街の人に死者が出るかもしれないけど、いいの?」
「なるべく死者が出ないよう努めましょう。今はそれしか言えないわ。」




