第33話 従魔の印
ゼノアが迷宮都市から戻ってきた時、手には特別な箱と鍵が握られていた。
「これが『従魔の印』です。」
ゼノアは自信を持ってトーマンにそれを渡した。
トーマンは箱を開け、中を確認すると、安堵の表情を浮かべ、涙が頬を伝った。
「ありがとうございます。これで我が商会の信用が守られました」
彼女は続けて、手紙を取り出し、ランセリアに渡した。
「あなたのお父さんとお兄さんからの手紙です」
ランセリアは手紙を読み始め、その内容を知ると、涙が止まらなくなった。
「よかった、父の病気は回復に向かっているわ」
「それなら、急ぐ必要はなくなったのでは?」
トーマンが尋ねると、ランセリアは微笑みながら答えた。
「ええ、ここで街道が安心して通れるようになるのを待つわ。」
二人は安堵の笑顔を交わしたが、その時、ゼノアがシリルに視線を向けた。
「ところで、シリル、何も問題は起こさなかった?」
シリルは一瞬、目をそらした。
「べ、別に……起こさなかったよ。」
「そう、ならいいわ。」
ゼノアは何かを感じながらも、特に深く追及しなかったので、シリルは安堵した。
ゼノアはシリルを連れて部屋を出た。
「明日冒険者ギルドに行くわよ。確認したいことができたの」
翌日トーマンは「従魔の印」を城主に献上した。
城主は大変喜び、トーマン及びダルマリオ商会の納税の大幅な減税と通行税の免除を与えた。
これによりダルマリオ商会タダン支部は飛躍的に発展する。
一方マタル商会は、シリルの一件で警備隊との癒着、賄賂の問題が発覚し、多額の罰金を支払う羽目になり、以後衰退の一途をたどった。
ガニマ一家はマタル商会から報酬を貰えずじまいになり、シリルに憎悪を抱き、仕返しをすると決心した。
暗殺ギルドの首領は隠れていたが、彼の部下たちは次々と捕まるか命を落とし、わずか2名にまで減少してしまった。彼らは金髪のエルフを殺すと誓った。
その頃、ゼノアとシリルは冒険者ギルドに来ていた。
幸運にも受付には人は並んでおらず、すぐに受付嬢に話しかけることができた。
ゼノアは笑顔で挨拶をした。
「ギルドマスターにお話しがあるのですが」
「どのような件でしょうか?」
「ワイバーンの卵」
その瞬間、受付嬢の顔色が変わり、すぐに2階へと急ぎ足で向かった。しばらくして戻ってくると、「こちらへどうぞ」と二人を案内した。
ギルドマスターはソファーに座って、二人を見つめた。
「ワイバーンの卵の件だそうですが、具体的には?」
「城主がワイバーンの卵を求めていると聞きました」
「どこから、そんな話を聞いたのですか?」
ゼノアはギルドマスターが、この件にも関わっていると直感した。
「先日ワイバーンに襲われている冒険者がいて、ワイバーンの卵を持っていました」
「それで、その冒険者は?……」
「城主が大金で買ってくれると言っていましたが、その後のことは知りません」
「そうでしたか……」
しばらくの沈黙の後、ゼノアが痺れを切らして口を開いた。
「ワイバーンの卵を街に持ち込めば、ワイバーンの大群が押し寄せてきますよ」
「だから?」
「城主に止めるよう忠告するのが、ギルドマスターの仕事ではないですか?」
ギルドマスターは鼻で笑った。
「もうすぐ迷宮都市とこの街の軍が合同でワイバーン殲滅を行いますから、ご心配なく」
「盗賊団はどうされるんですか?」
「そちらも同時に一気に抑える予定ですから」
「そう言うことですか。分かりました。失礼します」
ゼノアは憮然として部屋を出ていった。
「面倒な事になったわ」
シリルはあっけらかんと言い放った。
「軍が盗賊団もワイバーンと同時に討伐してくれるなら、任せれば?」
しかしゼノアは難しい顔をして、首を横に振った。
「軍だけで解決できるのなら、とうの昔に解決できてるはずよ」
「ああ、そうか」
「先に盗賊団を片付けましょう。そしたら軍も動きやすいでしょう」
「ワイバーンから片付けるのはダメなの?」
ゼノアはシリルを諭すように言った。
「ワイバーンは逃げないけど、盗賊団は逃げるでしょ? 逃げられたら、また同じことが起こるわ」
「そうか、残念」
その様子を伺っていた者たちがいた。ガニマ一家の子分と暗殺ギルドの部下だ。
そしてガニマ一家と暗殺ギルドは、その日の内に盗賊団へ向けて出立した。




