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第32話 暗殺者

ゼノアが迷宮都市へ出立した翌日、シリルは上機嫌で冒険者ギルドを訪れた。


いつも小言を言い、ちょっとやり過ぎると地獄のお仕置きをする、絶対的強者の漆黒の魔女がいないのだ。

何も恐れることなく、久々の自由を満喫できることに有頂天になっていた。


例のごとく掲示板を見ていると、例のごとく男が声を掛けてきた。


「お嬢ちゃん、ひとりかい?良かったら俺たちがいろいろ教えてやるぜ」


シリルは振り返り、にっこり笑って奥のテーブルを指さした。


「奢ってくれるなら、考えてもいいよ」

「おう、いいぜ!」


彼女と男たちがテーブルに向うと、ギルド内の空気は騒ついた。別の冒険者が小声でつぶやいた。


「あの嬢ちゃんかわそうに、ガニマ一家に捕まってしまうとは」

「おまえ知らないのか?捕まってしまったのはガニマ一家のやつだよ」

「ガニマ一家のやつ、懲りてないのか?バカなのか?」




「まずはエールで乾杯だ!」

「乾杯!」

「いい飲みっぷりだな!もっとエールを持ってこい!」


エールが何杯も空になる頃、男たちはすっかり酔い、シリルに寄りかかるように近づいてきた。


「なあ、これからもっと楽しいことしないか?」


シリルは彼らを挑発するかのように笑みを深めた。


「飲み比べで勝てたらね。ただし、私が飲み干したら、あなたたちも同じように飲むこと。飲めなかったら、負けね」


「面白え、勝負だ!」

「もちろん。さあ、エールをどんどん持ってきて」


1時間後、男たちはテーブルに崩れ落ちていた。

シリルは涼しい顔で立ち上がり、軽く手を振った。


「ありがと。奢ってくれて。それじゃ、さようなら」


シリルが上機嫌でギルドを出た時、そこに大勢の男たちが出口の周りを囲んでいた。

大柄の男が一歩前に出て、シリルを睨みつけた。ガニマ一家のボス、ガニマだった。


「金髪のお嬢ちゃん、真昼間から無銭飲食はいけないな」

「えっ?だって奢ってくれるって言われたから……」

「みんなが見てたんだよ。金を払わず出て来たのを」

「ちょっと待って、違うんだって……」

「おい、誰か警備兵を呼んで来い!」


男たちが笑っているの見て、シリルは自分が罠に嵌められたことを悟った。


はめめやがったな!」

「だから何だ?」


シリルは一瞬、頭に血が上ったが、「喧嘩はダメ」を思い出し、冷静になった。

ここは逃げた方がいいと思った矢先、ひとりの男が殴りかかってきた。

それを避けたところ、男は大きく転んで叫んだ。


「痛てぇ!こいつにやられた」

「えっ?何もしてないけど?」


次々に男たちが襲いかかってきたが、自分から転んで叫んだ。


「痛てぇ!こいつにやられた」


そして警備兵がやってきた。


「何事だ!」


ガニマが大声で叫んだ。


「警備兵さん、金髪の女は無銭飲食したあげく、俺達に暴力を振るったんだ!」


周りに集まっていた野次馬も「そうだ」「俺も見た」とガニマに賛同した。

実は野次馬もガニマが用意したものだった。

それを見た警備兵はシリルに剣を向けた。


「大人しく我々に同行してもらおう」


「いい気味だぜ」


ガニマは大笑いをしていた。

ここで警備兵を振り切って逃げれば、確実に犯罪者になってしまう。

シリルはガニマに完全にしてやられたことに怒りを覚えたが、グッと我慢して警備兵に大人しく従った。


そしてシリルは城の地下牢に監禁されてしまった。


「ダルマリオ商会のトーマンさんを呼んでください」


シリルは警備兵に何度もお願いしたが、全く取り合ってくれなかった。

それもそのはず、その警備兵はマタル商会の息がかかっていた者だったからだ。

こうしてシリルは失意のまま夜を迎えた。


「ゼノア姉ちゃん、助けて……」


シリルは、ため息をついて地下牢の冷たい石壁に背を預けた。

暗闇が押し寄せる中、風の気配が警告を伝える。


一瞬で風の守りが全開になり、彼女は身を捻って避けた。

暗闇の中から黒い手が伸びて短剣が迫ってきているのが見えた。


シリルの左腕に微かな切傷ができた瞬間、腕が痺れ、傷口がどす黒く腫れた。

麻痺と毒か!シリルはすぐに女神の癒しを使った。


『バカな!避けられた。しかも癒しを使うのか』


黒装束の男は、初手で仕留められなかったことに驚愕し、一瞬動きが止まった。

シリルは、それを見逃さなかった。

すばやく剣を振ったが、男の右手を掠めただけだった。


男は短剣を手放したが、体勢を整えるため殺気と気配を完全に消し、シリルの背面に移動しようとした。

しかしシリルの風の守りが男を捕らえた。

そのまま後方に全力で飛び、壁と風で男を押しつぶした。


男の動きが止まったところに、シリルは鳩尾みぞおちに蹴りを叩き込み、男は意識を失い倒れた。


「ふうう、危なかった。いったい何者なんだ?」


騒ぎを聞きつけた警備兵たちがやってきて、黒装束の男を縄で縛って連れ出した。


「あの~、その人死んでないよね?」


警備兵は、暗殺者の命を心配する金髪の美少女に呆れ驚いた。


「死んでないから大丈夫だ」

「あとで取り調べがあるから大人しくしておくように」


その後、城では大騒ぎとなり緊急会議が開かれた。

暗殺ギルドのメンバーが地下牢で逮捕されたからだ。

拷問で暗殺ギルドのアジトが判明し、すぐに軍と警備隊が派遣された。

多くの暗殺ギルドのメンバーや関係者が逮捕され、この街の暗殺ギルドはほぼ壊滅した。


翌朝、シリルは簡単な事情聴取を受け、釈放された。


「あぁ、大変な一日だった。もう大人しくしておこう」


シリルは暗殺ギルドのメンバー逮捕、暗殺ギルドの壊滅に多大な貢献をしたことを知らなかった。そして暗殺ギルドから依頼とは関係なく命を狙われることになったことも。

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