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オーガ狩り

その夜、ゼノアはミミと一緒に寝ていた。

無邪気に幸せそうなミミの顔を見て、はるか昔の友人のことを思い出していた。


7年前魔物に襲われた村を救うとしたが間に合わなかった。

赤子を抱いた母親を見つけたが、母親は「ミミ」と一言だけつぶいて死んだ。

流れた大量の血に、はるか昔の友人の顔が浮かんで、この赤子がその子孫だと直感した。

そして、久しぶりに見つけた友人の子孫に大いに喜んだ。


魔物を狩って各地を周っていて、赤子を連れていけなかったので、この子を孤児院に預けた。

シスターには、何かあれば冒険者ギルドに連絡するように伝え、1年に1回は様子を見に来ていた。



翌朝、二人は冒険者ギルドの門を勢いよく開け放ち、中へ踏み入った。

新しい依頼を探したり、仲間と相談したり、朝食を取っていたりとギルドの中はいつものように活気に溢れていた。

冒険者たちが受付に整然と並ぶ中、ゼノアとシリルは躊躇とまどうことなく受付嬢の前に割り込んだ。


「げっ、漆黒と暴風」


冒険者たちは割り込まれたことに一瞬腹をたてたが、二人の姿を確認すると、すぐに沈黙した。

ゼノアが受付嬢に微笑みかける。


「ギルドマスターを呼んでもらえる?」

「しょ、承知しました。今すぐに」


受付嬢は慌てて階段を駆け上がり、その様子に新米冒険者たちがざわつく。


「割り込むなよ!」


若者の一人が声を上げたが、年配の冒険者が彼の口を塞いだ。


「黙れ。あいつらには関わるな」

「忘れるんだ。いいな!」

「死にたくなかったら、他所で言いふらしたりするんじゃねえぞ」


新米冒険者たちは、その異様な雰囲気にただうなずくしかなかった。



ギルドマスターの部屋はピリピリとした緊張感に包まれていた。

ゼノアは挨拶抜きで話し始めた。


「昨日孤児院が襲われかけたの。商人と部下、そして「銀の剣」という二人の冒険者に」

「銀の剣は領都の冒険者で、たまたま寄っただけらしい。商人の方は知らん」


「孤児院の安全をお願いしたいの。その代わり面倒な依頼を引き受けるわ」

「分かった。北の方、山を2つ超えたところでオーガが見つかった。集落があるかもしれん殲滅してくれ」


「分かったわ。重ねて言うけど、孤児院の方をよろしく頼むわね」


言いたい事を言うだけ言って、二人が部屋を出ていくと、ギルドマスターはソファーに寄り掛かった。


「はぁ~、命が縮む思いだ。しかし、あの孤児院にちょっかいだすなんて、面倒事は勘弁してくれ……」





ゼノアとシリルは北の山を目指した。

そして山を3つ超えた先の谷でオーガの集落を見つけた。


ゼノアは集落を見渡した。


「300体はいるわね。それにキングがいる」


シリルは嬉しそうに舌なめずりしていた。


「久しぶりに楽しめそう。ねえ、ひとりでやらせてよ!」


ゼノアはシリルの頭に嵌めてあるティアラを外した。

それは魔力を抑えるための魔術具「戒めの冠」で、シリルが人を殺さないよう着けさせていたものだった。


「はい、はい。外に逃げたやつらは私がやるからね」

「ヒャッホー! いってきま~す!」


シリルは精霊の風を身にまとい、オーガキングに突っ込んでいった。


キングは、その膨大な魔力を察知し、危険を感じた。

棍棒を構えて守りに入り、突っ込んでくるのを避けようと半身の姿勢をとった。

しかしシリルが方が少し早く届いて、キングの右腕が吹き飛んだ。


シリルは地面に軽やかに着地し、苦笑いをした。


「チェッ、外したか」


キングが大声で咆哮ほうこうし、周りのシャーマンが呪文を唱え始めると、右腕はみるみる元通りになっていった。


周りにいたオーガが一斉に襲い掛かったが、シリルは軽やかに全ての攻撃を回避しオーガを斬っていった。


キングがその隙に棍棒を拾って大きく一閃すると、周りのオーガたちが巻き添えを喰らって吹き飛ばされた。

キングは余計に怒り、落ちていた棍棒を拾って二刀流で振り廻し、シリルを追いかけた。

キングの棍棒の暴力とシリルの剣でオーガは半分にまで減っていった。


キングが棍棒を振り下ろしたとき、シリルは懐に飛び込んで右腕を切り落とし、さらに素早く移動して左腕をも切り落とした。


キングが咆哮し、周りのシャーマンが呪文を唱え、両腕が生えてきて、依然と変わらぬ姿に戻った。


シリルは残忍な笑みを浮かべていた。

致命傷を与えず、ひたすら両腕、両脚を切断していた。

その度にシャーマンが自己回復のための魔力を送っていたが、やがてそれも尽きた。


ゼノアはその様子を見て、ため息をついた。


「また暴走してしまったのね。『戒めの冠』を外したのは間違いだったわ」


四肢を切られ、さらに全身を切り刻まれて、キングは死の淵にいた。

それを見ていたオーガたちは恐怖に逃げ出した。

しかし、その前にゼノアが現れた。


「ドレイン」


ゼノアが呟くと、オーガの群れは一斉に命を吸われ、息絶えた。


シリルはキングの頭に片足をのせ、勝ち誇りったように剣を掲げて、振り下ろした。


「へへへ、ざまぁみろ!」


オーガキングは首をはねねられ死んだ。


ゼノアは逃げていったオーガを「ドレイン」で倒し終わると、低く冷たい声色でシリルを睨んだ。


「シリル! 我を忘れてたわね……」


シリルはその声で我に返った。


「あっ、……これは……ご、ごめんなさい」

「久しぶりにお仕置きが必要ね」

「い、いやぁ! やめて!」


その夜遅くまでシリルの絶叫が続いた。



翌朝シリルを孤児院に残して、ゼノアは冒険者ギルドへ向かった。

ギルドマスターの部屋に直行し、ノックもせず入った。

ギルドマスターは、突然ゼノアが入って来て、肝を冷やした。


ゼノアは、涼しげな顔で報告した。


「キング1体、ジェネラル2体、シャーマン5体、ソルジャー他オーガが289体。全て殲滅したわ」

「キングまでいたのか! 感謝する」


そして彼女はギルドマスターを睨んだ。


「例の商人は分かったかしら?」

「ああ、王都の商人だった。定かではないが奴隷を扱っているらしい」


「この国では奴隷を扱うのは禁止になっていたはずだけど……」

「その通りだ。しかし裏でやっている奴はいる」


「その商人の情報を渡してちょうだい」

「ああ、ここに」


ギルドマスターは報告書を手渡した。

ゼノアはそれを読んでからギルドマスターに返して、部屋を出ていった。


「こ、怖えぇ。死ぬかと思った……」


ギルドマスターは冷や汗を拭って、葉巻に火をつけて窓の外を見た。

漆黒の魔女が怒れば、国が消し飛ぶかもしれない。

それくらいヤバイやつだと分かっていたので、今回の件がどうなるか怖くてたまらなかった。

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