第23話 二人の旅立ち
ヴァンパイアに国を乗っ取られかけた。
それを防げたと思ったら、国が亡ぶかも知れない魔女の襲来が起こった。
しかし事態は避けられた。
安堵したら世界の危機が起こったのだ。
ゼノアの言葉に、誰もがついていけなかった。
ゼノアは説明した。
ヴァンパイアは人間世界のほとんどの国に、今回のような乗っ取りを計画していたことを。
パールアルティ公国は防げた。
しかし早急に世界に警告を出し、対抗しなければ、人間世界は危うくなる。
大司教が立ち上がった。
「教会が秘密裏に世界中に警告を発します。そして今回同様の対策を行います!」
「それがよろしいかと思います」
ゼノアが頷いた。
他の者も頷いた。シリルを除いて。
「ボク、こんな面倒なことは、もうやりたくない」
シリルが膨れっ面をすると宰相と大司教は慌てた。
シリルがいなければ、これほど旨く行かなかったから、今後もシリルに期待するのは当然だった。
「シリル様、そこをなんとか……」「どうかお願いしたい」
シリルと他の者の様子を見比べ、ゼノアは尋ねた。
「シリルちゃんは、どんな重要な役割だったの?」
「ヴァンパイアを見つけたり、特定する仕事。すごく面倒で面白くない」
ゼノアは目を閉じて、しばらく考えた。
「それならひとつ手があります。大司教様、二人だけでお話できますか?」
シリルは面倒ごとから解放され、飛び上がって喜んだ。
「やったー! ゼノアお姉ちゃん、ありがとう!」
その後、ゼノアと大司教二人だけを残して、皆部屋の外に出ていった。
ゼノアは天井裏の男をちらりと見て、彼にだけ軽い威圧をかけ気絶させた。
そしてゼノアは大司教にだけ、その方法を説明した。
大司教は教会本部に戻ってから、漆黒の魔女ゼノアのことを思い出していた。
魔王を倒した勇者一行には「漆黒の魔女ゼノア」と呼ばれた、金色の瞳に黒髪、黒尽くめの女性がいた。
魔王を倒して凱旋したが、教会は彼女のことを公表することを反対した。
彼女が「魔物」だったからだ。
彼女自身も公表されることを辞退した。
だから伝説、伝承に彼女のことは出てこない。
しかし勇者は不満に思い、彼女のことを知って欲しいと思い手記を書き残した。
勇者の死後、その手記は写本され密かに広まっていったが、教会はこれを禁書として焼き尽くした。
しかし原本は今なお教会総本部の地下深くの禁書庫に保管され、大司教に就任した者だけが読むべき本とされた。
「世界を救った魔物、世界を滅ぼす力を持った魔女、敬意と畏怖を持って接せよ」
と教えらたのだ。
二週間後、ゼノアとシリルは首都パランテを見下ろす丘に立っていた。
風が草を揺らし、遠くに見える街の輝きが、彼女らの未来を映し出すように煌めいていた。
ゼノアはシリルの方を見つめ、優しく微笑んだ。
「シリルちゃんが、一緒に旅をしてくれると言ってくれて嬉しかった」
シリルは目を輝かせてゼノアを見上げ、拳を握り締めた。
「ボクはもっと強くなって、じっちゃんの仇を討つんだ。だから、お姉ちゃんに鍛えてほしいんだ」
ゼノアはシリルの決意を受け止めるように頷いた。
「ふふ、私の特訓は厳しいわよ。覚悟してね」
シリルも大きく頷き、力強く返事をした。
「もちろん!」
ゼノアは軽く笑いながら、少しからかうように言った。
「逃げ出しても無駄だからね。逃げだしたら、お仕置きよ」
シリルは目を見開き、少し不安げに呟いた。
「ええ、それは……ちょっと……お手柔らかにお願いします」
ゼノアはくすくすと笑い声を漏らし、空を見上げた。
「ふふふ、楽しくなりそうね」
二人は互いに笑顔を交わし、次の目的地へ向かって飛び立った。
新たな冒険の始まりと共に、二人の長い長い旅が幕を開けた。




