第21話 邂逅2
「はじめまして、ガーランドのお孫ちゃん。私はゼノア、よろしくね」
柔らかな声が耳に届き、シリルはその声の主に視線を向けた。
そこには、さっきまで死闘を繰り広げた女性――ゼノアが座っていた。
ゼノアは微笑みながらシリルの頭を撫でており、その手は驚くほど優しかった。
シリルは反射的に起き上がろうとしたが、足に力が入らず、再びその場に座り込んだ。
身体が鉛のように重く、魔力が完全には回復していないことを実感した。
ゼノアが優しく尋ねる。
「あなたのお名前は?」
「……シリル」
シリルは混乱したまま答えた。
その名前をゼノアはまるで宝物のように繰り返した。
「シリル……可愛いい名前ね」
シリルは顔を顰め困惑した。
どうしてこの状況でそんなことを言うのか理解できない。
彼女は明らかに敵だ――それなのに、なぜ殺されずにいるのか。
戦いの最中、この女には敵意というものが感じられなかった。
『何なんだ、こいつ……』
シリルは心の中でそう呟いたが、口には出さなかった。
「ねえ、ガーランドはどうしてる?」
突然の質問に、シリルの胸が痛んだ。
彼女の表情が曇り、言葉が重く響く。
「おまえら魔人に殺された」
彼女は短く吐き捨てるように言った。
ゼノアの顔から、次第に笑みが消えていった。
静寂が訪れ、ゼノアの瞳に一粒の涙が浮かび、ゆっくりと頬を伝って落ちた。
それを見たシリルは、一瞬、驚きの表情を浮かべた。
「えっ?」
シリルが戸惑う間もなく、ゼノアの目から次々に涙が流れ出した。
その顔は悲しみで歪み、まるで堤が決壊するかのように泣き始めた。
「ガーランド、ああ、ガーランド……もう一度会いたかった……」
ゼノアは声を上げて泣き出した。
美女が顔をぐちゃぐちゃにし、鼻水を垂らしながら大泣きする姿に、シリルはただ面食らうしかなかった。
何が起きているのか理解できない――どうするべきなのか、どう反応するべきなのかが分からず、ただオロオロとするばかりだった。
だが、その姿に心がつられてしまい、彼女も気づいたら涙をこぼしていた。
「ガーランド」「じっちゃん」
やがて二人は互いに泣きながら抱き合った。
しばらくして、涙が枯れた二人はようやく気持ちが落ち着き、顔を上げてお互いの手を離した。
ゼノアは気まずそうに微笑んだ。
「ごめんなさい。みっともなかったわね」
「べ、べつに……」
二人は見つめ合っていた。
お互いに言葉を超えた絆のようなものを感じていた。
シリルがようやく口を開いた。
「じっちゃんの知り合いなの?」
「ええ、ずっと昔、あなたが生まれるずっと前」
その言葉には懐かしさと痛みが混ざり合っていた。
ゼノアは手を差し出し、握手を求めた。
「わたしはゼノア。これからよろしくね」
シリルは戸惑いながらもその手を取った。
「ボクはシリル。そ、その……いきなり襲いかかって……ごめんなさい」
「ふふ、別に気にしてないわ。分かり合えたんですもの」
ゼノアは満面の笑みを浮かべていたが、シリルは腑に落ちないものの笑みを浮かべた。
『分かり合えた? 魔人……だよね?いいのかな?……』
シリルは頭の中で自問自答を繰り返していた。
しかし、ゼノアの強大な力を目の当たりにし、今の自分には逆らえないという現実も理解していた。
ゼノアは首都パランテの方角を見つめ、表情を引き締めた。
「パランテへ戻りましょう。やらなけばいけない事ができてしまったの」
「はい。ゼノア……ゼノアさん」
「あら、ゼノアでいいわよ。でもよければゼノアお姉ちゃんって呼んでくれと嬉しいかな」
「は、はい。ゼノア……お姉さん」
「服がボロボロで人様に見せられないわね。まずは服を買いにいきましょう」
「服? いいよ、これで」
「良くないわよ。女性は身だしなみが大切よ」
そう言ってゼノアはシリルの手を取って飛んで行った。
降りた場所はパランテの高級服店だった。
ゼノアは店員にシリルを押しつけた。
「この子に合う服をお願いします。急いでいるの、すぐ着たいので既製品で構いません」
店員はシリルを奥の部屋に連れていき、ささっと着替えさせた。
「こちらが最新の流行のものです」
「まあ、可愛い。それでいいわ」
「やだ! これじゃ戦いの邪魔……」
店員は面食らって驚いた。
「た、戦いですか?……」
「仕方ないわね。乗馬で使えそうな男の子向けの、できるだけ可愛いのを」
「は、はい。畏まりました」
店員は言われるまま、あたふたし服を選らんだ。
「い、いかがでしょうか?」
「シリルちゃん、それならどう?」
「ええ、う、うん。いいと思う……」
「もっと可愛らしくしたかったけど。まあいいわ。これを貰うわ」
ゼノアはさっさと支払いを済ませ店を出た。
「ゼノア姉さん、ボク、みんなの所に戻らないといけないんだ」
「なら、私も行くわ。挨拶したいから」
「いや、それはちょと不味いかも……」
シリルに連れられてたどり着いた場所は、教会本部だった。
教会の荘厳な建物を見て、ゼノアは表情を険しくした。
「確かにまずいわね……私は入らない方が良さそう」
「え~っと……どうしよう……」
「私は冒険者ギルドにいるから、終わったら来てちょうだい」
「分かった」
ゼノアは冒険者ギルドへ向かい、シリルは教会の中へと入っていた。




