第20話 邂逅―ゼノアとシリル
ゼノアは久しぶりにパールアルティ公国を旅していた。建国記念祭が近づいているという噂を聞きつけ、首都パランテを訪れた。
街は平和そのもので、人々は華やかな装飾に彩られた通りを行き交っていた。
しかし、その中に「魅了」された独特の気配を持つ人が散見された。
「これは妙ね...」
ゼノアは姿、気配を完全に消し、あちこちを調べ回ることにした。
そして首都近くの森にある地下墓地で、多数のヴァンパイアが眠っているのを発見した。
暗闇の中で無数の棺が並び、冷たい空気が漂っている。
彼女の胸中には驚き、戸惑い、不安が混ざり合った。
これほど多くのヴァンパイアが人間の世界に潜伏しているとは想像もしていなかったからだ。
地下墓地をさらに調べ、通路を通って滝のそばにある洞窟に入った時、ゼノアは強烈な魔力と複数のヴァンパイアの気配を感じ取った。
その刹那、通路から誰かが走ってくるのを察知した。
サムニエルは、洞窟に着いた途端に目の前の光景に呆然と立ち尽くした。
そこには黒髪の女が立っていた。
黒の衣装に包まれた妖艶な姿で、微笑みを浮かべていたが、金色の目が冷たい光っていた。
「なぜ、こんな場所に女がひとりでいる?」
サムニエルの眉が僅かにひそめられる。
違和感が頭をよぎるが、彼の今の目的はエルフから逃げることだった。
「我が下僕となれ!」
彼は咄嗟に叫び、女に飛びかかって首に噛みついた。
だが、女は驚くどころか、余裕すら感じさせる薄笑いを浮かべた。
「あら、はしたないわね」
彼女は嘲るように言った。
次の瞬間、サムニエルは強烈な威圧に押し潰され、地面に撃ち伏せられた。
まるで重力が何倍にも増したかのように、体が動かない。
この力強さは、彼の知る限り女王陛下に匹敵するものだった。
ゼノアは、倒れて動けないヴァンパイアを片手で持ち上げた。
「あなたたちは、何を企んでいるの?」
サムニエルは震える声で叫んだ。
「魔人に話すことなどない!」
ゼノアは彼の目をじっと見つめ、強烈な魅了をかけた。
サムニエルの抵抗は瞬時に消え去り、彼は計画の全てを白状した。
ゼノアは、その内容を聞くうちに心が次第に悲しみで満たされていった。
「女王リリーに伝えて。こんなことは、もうしないで、と」
彼女は静かに言いながら、サムニエルを遠くに放り投げた。
サムニエルはすぐに立ち去り、その姿は森の中に消えた。
そこに金髪の女の子が飛び込んできた。
まだ若いエルフだったが、その手に持つ剣に目が釘付けになった。
「ガーランドの神剣?まさかね……」
俄然興味が湧いた。
笑顔で話しかようとしたら、美少女からはとても似つかわしくない言葉が発せられた。
「魔人は殺す!」
ゼノアは面食らった。
「まずは、話し合いませんか?」
ゼノアは彼女の剣を観察しながら、するりするりと攻撃を躱していった。
シリルは遊ばれていることに気づき、激怒した。
「くそが! 逃げるな!」
「せっかく可愛いのに、言葉使いがダメね……」
「うるせー!」
シリルの怒りに精霊が呼応し、彼女の周りは暴風になっていた。
「大した魔力量ね。でも制御がなってないわ」
ゼノアは暴風に逆らわず、上手くいなしがら、洞窟の外に出た。
ついにシリルの感情が爆発し、瞳が金色に変わり、神剣が強く光だした。
「やっぱりガーランドの神剣だ。ああ、ガーランド……」
懐かしい仲間たちとの旅の記憶が胸を熱くさせ、ゼノアの表情に一瞬の哀愁が浮かんだ。
シリルは全力で切りかかり、ゼノアはそれをギリギリで回避した。
そして彼女に触れるたびに魔力を吸い取り、次第に彼女の体力を削っていった。
やがてシリルの動きは鈍くなり、足を止めた。
彼女の呼吸が荒くなり、感情も少しずつ落ち着いてきた。
「なぜあなたがガーランドの神剣を持っているの?」
その言葉にシリルは驚いて、ワナワナと震えてだした。
「じっちゃんを知っているのか?」
「ええ、知っているわ」
ゼノアは両腕で優しく抱こうとした。しかしシリルは急に喚きだした。
「じっちゃんを返せ!」
シリルの感情が一気に爆発し、ゼノアに剣を突き立て飛びかかった。
ゼノアは避ける間はなく、神剣が胸に刺さり、シリルと共に吹き飛ばされた。
地面に激突し、馬乗りになったシリアはさらに剣を振りかざした。
「ドレイン」
ゼノアが呟くと、瞬く間にシリルの魔力が吸い取られ、力尽きてその場に崩れ落ちた。
彼女は意識を失い、ゼノアの腕の中に倒れ込んだ。
「神剣に刺されると、とても痛いのね」
ゼノアは苦笑しながら、胸に刺さった傷を見下ろした。
神剣の力が残り、傷が再生する度に、また裂けるという苦痛を何度も味わいながら、
やがて体は元に戻った。
「ガーランドのお孫ちゃんか。可愛いな……」
ゼノアはそっとシリルの金色の髪を撫で、わずかに目を細め、口元に微笑を浮かべた。
彼女の瞳には過去への想いと、今目の前にいる少女への優しさが映し出されていた。
シリルが目を覚ましたとき、太陽は真上にあり、眩しい光が目に飛び込んできた。
もう昼過ぎだった。地面の冷たさが体に染みつき、彼女は一瞬、自分がどこにいるのか理解できなかった。
「はじめまして、ガーランドのお孫ちゃん。私はゼノア、よろしくね」




