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第18話 首都パランテ

パールアルティ公国 首都パランテ。


宰相ケールは、膨大な書類の山に囲まれながら執務室で仕事をしていた。

静寂が漂う部屋には、ペンが紙を擦る音だけが響いていた。

そんな中、まるで影が形を成したかのように、特殊情報部隊「影」の隊長が音もなく現れた。


「何事だ?」


ケールは驚きを隠しきれずに尋ねた。

「影」が通常、報告を行うのは寝室であり、執務室にまでやってくるのは異例中の異例だった。


隊長はケールの耳元で囁くように報告をした。

ケールの表情が一瞬にして険しくなり、心臓が早鐘を打った。


「まことか?すぐに教会へ出向く。それから、その早馬の手紙は奪って処分せよ。そして、城の者の身辺調査を怠るな。だが執事長には手を出すな、悟られるかもしれん」


「影」は再び影に溶け込むようにして、音も立てずに消えた。

ケールは周りを確認し、冷静を装いながら呼び鈴を鳴らした。


「明日、大司教に面談できるよう手配してくれたまえ」


そう言うと、立ち上がったが、わざとよろめいて膝をついてみせた。


「大丈夫ですか?」

「ああ、疲れが貯まりすぎたか……」


いかにも疲れたという演技をした。


「今日はお帰りなって、お休みになられては……」

「うむ、そうするか では、馬車の支度を頼む」


ケールは馬車に乗って城を出た。そして自宅ではなく、教会へと向かった。



パールアルティ教会本部の特別室。

テーブルとソファーだけがある質素な部屋だが、壁にはいくつもの魔術具がかけられていた。

窓はなく蝋燭の薄暗い光が厳粛な空気を醸し出していた。

重厚な扉がゆっくりと閉まる音が響く中、ケールと大司教が向かい合い、静かに会話を始めた。


「まさか、執事長がヴァンパイアだとは……」


大司教は声を潜めたが、その震える指が彼の動揺を物語っていた。


「我が国の中枢には、もっと多くのヴァンパイアが潜んでいるかもしれません」


宰相ケールの顔には陰が差し、部屋は重苦しい雰囲気に包まれた。


ケールの言葉に、大司教は一瞬目を伏せ、慎重に言葉を選んだ。


「王は……王やその一族は?」


「現時点では、王やその一族に不審な点は見られませんが、何が起きるか分かりません。だからこそ、秘密裏に対策を立てる必要があります」


ケールは深く息をつき、決意を固めた。


「ご協力をお願いしたい」

「もちろんです」


大司教の声には、強い意志が込められていた。


その日のうちに、宰相が突然の重病に倒れたという知らせが駆け巡った。そして治療のため教会本部に移送されたことが発表された。



シリルたち一行は、トルアトを出発してから二週間、ようやく首都パランテの壮大な城壁が目に入った。

シリルは馬車の窓から目を輝かせて外の景色を見つめていた。

初めての馬車の旅、見渡す限りの広がる景色、そして豪華な宿での贅沢な滞在――すべてが彼女にとっては夢のようだった。


しかし、馬車の中で彼の隣に座る長官とダニエトロは、重い沈黙を保っていた。

二人の顔には深刻な表情が浮かび、頭の中では絶えず問題が渦巻いているのがシリルにも感じ取れた。

それでも、彼女の心はヴァンパイアと戦えることに胸を躍らせていた。


やがて、首都パランテの壮麗な街並みが広がると、シリルは一段と目を輝かせた。

大通りには色とりどりの旗がはためき、人々が楽しげに行き交っている。

まるで街全体が祝祭の舞台になったかのようだ。

シリルは馬車の扉に手をかけ、飛び出したい衝動に駆られたが、ギルドマスターに静かに肩を押さえられた。

残念そうに頬を膨らませたが、他の人の顔は重苦しそうだったので、大人しく席に座った。


一行はそのまま、教会本部へと向かった。


重厚な扉が開き、荘厳な大聖堂へ足を踏み入れたとき聖水をかけられて、シリルは不機嫌な顔をした。


シリルは眉をひそめて尋ねた。


「ねえ、毎回こんな風に水をかけられるの?」

「ええ、そうですよ」


ダニエトロは微笑みながら答えたが、シリルの困惑は消えなかった。

シリルは呟いた。


「みんな、よく我慢してるな……」

「聖水をかけられると健康になるんですよ。みんな喜んでいますけどね。」


ダニエトロは当然と言った感じで答えたが、シリルは納得できない気持ちでいっぱいだった。


シリルは女神の癒しを使えるので聖水を使ったことはなかった。

しかし普通の人にとって聖水はありがたいものだったのだ。


一行は大聖堂の奥の特別室へと案内された。

そこには、宰相ケール、大司教、そして「影」の隊長が待っていた。

厳粛な雰囲気が漂う中、それぞれが労いの言葉を投げかけた。


「ギャスラン、ゴーチアン、御苦労であった」

「ダニエトロ、素晴らしき働き、女神様もお喜びであろう」


「シリル様の力があってこその勝利です。一番の功労者は彼女です」


ダニエトロはシリルに深々と礼をした。

ケールも続いて頭を下げ、敬意を示した。


「シリル殿、この度の御助力、心から感謝いたします」


大司教もシリルに礼をした。そして、その剣を見て驚いた。


「その剣はもしやガーランド様の神剣ですか?」


シリルは、ガーランドと剣のことを知っている人がいることに驚き喜んだ。


「そうだよ! じっちゃんの神剣!」


「なんと英雄ガーランドの様のお孫様とは! これも女神様のお導きでしょう!」


ケールと大司教は伝説の英雄の孫に会えて、いたく感激した。

しかしゴーチアンは、手放しに喜ばなかった。


「暴風エルフが、伝説の英雄の孫……なんか納得いかん……」


そんな呟きは誰の耳にも届かなった。

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