第17話 ヴァンパイア捕獲作戦
長官ギャスランは、長官室で一晩中仕事に没頭していた。
彼の手には、ヴァンパイア捕獲のための魔術具「拘束結界」が握られていた。
午前7時、鐘の音が静寂を破ると同時に、長官室と下水道を包む結界が作動した。
「しまった……」
ニアミーラは自分が閉じ込められたことに気づいた。
「長官を魅了して、ここを抜け出すしかない……」
彼女の姿は次の瞬間には長官の目の前に浮かび上がっていた。
その目は深紅に燃え、長官の心を侵略しようとするかのように凝視した。
その瞬間、眩しい光が視界全体を焼き尽くし、まるで鋭い針が眼球の奥に突き刺さるような痛みが走った。
ニアミーラは目を押さえて叫んだ。
「ぎゃ~! 痛い!」
瞼を閉じてもその光は消えず、目の中に炎が燃え上がるようだった
彼女の痛みは、「聖光玉」から放たれる聖なる光によるものだった。
彼女が怯んだ隙に、長官は「拘束結界」を起動し、彼女を捕らえた。
一方、下水道に潜んでいたヴァンパイアはニアミーラの分身体だった。
ここ数日、人間が下水道に出入りしていることを察知し、警戒していたのだ。
結界が作動した瞬間、ニアミーラの分身体の羽が一瞬にして無惨にも引き裂かれた。
力が奪われる感覚がまるで電流のように体中を走り、彼女の体は耐え難い圧力に押し潰されそうになった。
「結界だと!?」
焦りの声を上げるニアミーラ。
彼女は分身に呼びかけるが、何の反応も返ってこない。
状況を悟った彼女は、すぐに逃げることを決意した。
「分身が捕まったか? とにかく、逃げて報告しなければ」
下水道を抜け、森へと逃げ込もうとするが、突然横からシリルが飛び出してきた。
「逃がさん!」
シリルはニアミーラがわずかに体を翻した瞬間を見逃さず、体を低く構えながら疾風のように距離を詰めた。
そして、風を裂くように鋭い一撃を振り下ろした
鋭い音と共にニアミーラの右腕が宙を舞った。
「ええい、邪魔をするな!」
彼女は全速力で出口へ向かうが、その直前、見えない壁に激突した。
「また結界か!」
すかさずシリルが聖光玉を投げつける。
ニアミーラは避けるが、目を焼き付けるような光が襲い、視界が真っ白になった。
「ぎゃー!」
彼女の動きが止まり、その隙を逃さずシリルが「拘束結界」の魔術具を押し付け、ニアミーラを拘束した。
そして、他にヴァンパイアの存在は確認されず、作戦は無事に成功を収めた。
その後、彼らは城の地下牢に移動した。
ダニエトロとリアマータが満足そうに笑みを浮かべた。
「みなさん、ご苦労様でした。計画通りに成功し安堵しました」
「ヴァンパイアがひとりだけだったことも、幸運でした」
「これも一重に、皆様のおかげ、とりわけシリルさんのおかげです。感謝いたします」
「ここからは我々だけで、ヴァンパイアを拷問し情報を引き出します」
長官は、信じられないという表情を浮かべた。
「ヴァンパイアは主に絶対服従と言われているが、拷問は効果があるのかね?」
ダニエトロとリアマータが自信たっぷりに頷いた。
「分身体になると力が半減しますから、より拷問は効きやすくなります」
「見ていて楽しいものではありませんので、みなさまは、お仕事にお戻りください」
「明日の朝には結果がでていると思います」
長官ギャスラン、ギルドマスター・ゴーチアン、シリルは地下牢から出ていった。
ゴーチアンがシリルを見て笑顔を見せた。
「暴走しなかったそうだな」
ゴーチアンは冗談めかして笑みを浮かべたが、その目にはまだどこか緊張の色が残っていた。
「うん、何かお遊びみたいで楽しかった」
シリルのあまりに軽い答えに、ゴーチアンの緊張が解けた。
「いつも、そうしてくれれば可愛いのに……」
「ええ、いつも可愛いじゃん!」
「どこがだよ。暴走娘が!」
「ひで~言われよう……」
シリル以外笑い出し、彼女は膨れっ面になった。
その夜、地下牢では、ニアミーラは意識が朦朧となっていた。
ダニエトロとリアマータはゆっくりと近づき、ニアミーラの反応をじっくり観察していた。
「ニアミーラ、定時連絡がなかったが何かあったか?」
「申し訳ありませんでした。とくにありません」
「うむ、引き続き監視せよ」
「わかりました。主様」
ダニエトロとリアマータは拷問の効果に満足し、尋問を続けた。
深夜、シリルはギルドに呼ばれ、眠い目を擦りながら向かった。
そこには緊張した面持ちのゴーチアン、ギャスラン、ダニエトロが待っていた。
「朝の約束だったのに、何かあったの?」
ギャスランの顔には明らかな焦りが浮かんでいた。
「今すぐ首都へ行ってほしい」
ギャスランの低く震える声に、シリルは眉をひそめた。
「王様の執事長がヴァンパイアだと分かった」
ゴーチアンの今まで見たことない厳しい顔が、事の深刻さを物語っていた。
日が昇る前に シリル、ゴーチアン、ギャスラン、ダニエトロと共に首都パランテへ旅立った。
リアマータは残って、捕獲したヴァンパイアを教会本部に送る準備を始めた。




