第16話 ヴァンパイアハンター
二週間後、静寂を破るように、首都パランテの教会本部の大扉が重々しく開かれた。そこに立っていたのは二人のヴァンパイアハンター。
男の名はダニエトロ。眼鏡をかけ神経質そうで、その瞳には冷静な鋭さが宿っていた。
女の名はリアマータ。スラリとした長身で、神官らしからぬ怪しい笑みを浮かべていた。
二人とも神父の服装ではなく、商人のような恰好をし、教会関係者と気づかれないように気を配っていた。
ダニエトロが低く呟いた。
「日の目を見る時が来るとは、女神に感謝いたします」
「本当に。今まで私たちはまるで、必要のない道具のように扱われてきたものね」
リアマータが軽く笑みを浮かべて答え、ダニエトロが深く頷く。
「すべては女神様の神託と、聖女様のお導きのおかげです」
「まことに、ありがたいことだわ」
リアマータは満足したように呟いた。
かつて人間の国がヴァンパイアに乗っ取られることがあった。
人間たちはそれまで互いに争っていたが、ヴァンパイアに対抗するため同盟を結成し、ついにはヴァンパイアを追い出し国を取り戻した。
その後、人間たちはヴァンパイアの国へ進軍したが、ヴァンパイアの『魅了』によって同盟は崩壊し、再び劣勢となった。そこで一人の巫女が女神に祈り、ヴァンパイアを封じるための大規模な結界魔法を授かった。
巫女は自分の命と引き換えにヴァンパイアの国全体を覆う大規模結界を展開し封印した。巫女は聖女として崇められ、人間の世界に取り残されたヴァンパイアを狩るためのヴァンパイアハンターが結成された。
当初は花形職種だったが、ヴァンパイアがいなくなるとお荷物扱いされるようになった。しかし聖女から授かった術は大切に受け継がれていった。
二人がトルアトの街に足を踏み入れると、重厚な石造りの建物が立ち並ぶ中、冒険者ギルドが堂々とその姿を現した。
ここは魔物の襲撃から国を守る最前線。
当然冒険者たちは強者が揃っていた。
緊張感に満ちた空気を吸い込みながら、二人は迷わずギルドの扉を押し開けた。
ギルドマスターの部屋に入ると、ギルドマスターのゴーチアン、サブマス、長官ギャスラン、そしてシリルが彼らを待っていた。
部屋に足を踏み入れると、二人はすぐに魔術具を机に置き、全員に聖水を振りかけた。
突然の行動に驚いたシリルが、鋭く彼らを睨みつけた。
「いきなり何しやがる!」
しかし、二人は平然としたまま静かに応じた。
「ヴァンパイアや魔物はいないようで、安心しました」
「当たり前だ! こちらだって万全の対策は取っている!」
ゴーチアンが不満げに声を荒げた。
「慎重すぎるに越したことはありません。相手はヴァンパイアですから」
二人は部屋を見回し、やっと警戒を解いた。
「では、お話を聞かせてください」
皆がその慎重さに呆れつつ、話し合いが始まった。
二人のハンターは興味深げにシリルを見つめた。
「こちらが例のエルフのお嬢さんですね。ヴァンパイアの居場所は分かったのですか?」
ゴーチアンがシリルに目をやり、代わりに答えた。
「こいつは、魔物を見ると我を忘れて暴走するんだ。だから抑えられる者を探しているところでね」
「そういうことなら……」
リアマータは小さな魔術具を取り出し、シリルに手渡した。
シリルは不思議そうにそれを見つめた。
「えっ? これ、何?」
次の瞬間、魔術が発動し、シリルの体が拘束された。
捕獲拘束用の魔術具「拘束結界」だった。
「うわっ! 何しやがる!」
しかし、リアマータは落ち着いたままだ。
「こちらも効果あり。これで問題なく捜索が開始できますね」
ゴーチアンは驚きつつも呆れて声を出した。
「どうなっても、俺は責任取らんからな」
シリルの目には驚愕が浮かび、瞬く間にそれが激しい怒りへと変わった。
剣を抜き、リアマータに向けて怒鳴りつけた。
「てめぇ! 殺す!」
だが、リアマータは微笑みながらシリルを見つめる。
「魔人を殺したいのでしょう? 協力していただければ、情報をお渡ししますけど」
その言葉にシリルは、さっきまでの怒りを忘れ笑顔になった。
「協力する! 何でもする!」
全員がその手腕に感心した。
「これがヴァンパイアハンターか、凄いな」
「ええ、そうです。我々にかかれば、これくらい造作もありません」
その後、ヴァンパイアを捕獲する方法や準備についての話し合いが続いた。
翌日から、シリルとリアマータは街を駆け巡り、ヴァンパイアを探し続けた。
ダニエトロは、捕獲作戦を立案するため、街中をくまなく調査していた。
その日の夜も、彼らは疲労とともに眠りについたが、翌朝には気を取り直して再び活動を開始した。
1週間後、再びギルドマスターの部屋に集まったとき、リアマータは満足げに微笑み、シリルは自信満々に胸を張っていた。
「シリルさんのおかげで、ヴァンパイアの潜伏場所を突き止めました。長官室と下水道の2か所です」
リアマータの言葉には、シリルへの信頼が込められていた。
「かなり慎重な相手で、シリルさんがいなければ発見は困難だったでしょう。ぜひ、ヴァンパイアハンターの一員になっていただきたい」
シリルは得意げに笑った。
「ふふ、どんなもんだい! もっと褒めていいよ」
その言葉にゴーチアンがニヤリと笑った。
「ぜひ、ヴァンパイアハンターとして連れて行ってくれると、こちらとしても非常に助かる」
シリルは目を細めてゴーチアンを睨みつけた。
「それ、どういう意味?」
「そのままの意味だよ」
ゴーチアンは平然と答えた。
「そこまで言わなくてよくない?」
シリルは、むすっとして顔をそむけた。
ダニエトロは真剣な表情で説明した。
「長官室と下水道に結界装置を設置し、日が昇り次第、同時に作戦を開始します。ヴァンパイアを捕獲するが、決して殺してはなりません。親ヴァンパイアに察知されないよう、全てを封鎖し捕獲します」
シリルはその作戦を聞いて、初めての経験する捕獲作戦にワクワクしていた。
作戦決行は2日後午前7時と決まった。
前日の夜、シリルは、まるで遠足に行く前の子供のように、なかなか寝つけなかった。




