第14話 新たな街トルアト
第3章開始
シリルは、魔物や魔族を求めて辺境を歩いて回った。
神剣は錆びたり欠けることも無かったので、他に武器は必要なかった。
素早さがこそが彼女の持ち味だったので、装備は軽装だった。
だから装備はすぐボロボロになり、装備のため街に寄った。
街に寄ると何かと声をかけられるが、なるべく関わらないようにした。
それでも面倒ごとになった場合は、さっさと次の街に向かった。
そんな放浪者みたいな生活が30年続き、見た目は16歳くらいになっていた。
1年前から、パールアルティ公国のルアム辺境伯爵領のトルアトという街を拠点にしていた。
国境を守るための街というより砦といった方が合っていた。
東側には広大な森があり、魔物が多いため、シリルは最近その森で狩りをしていた
今日も狩ってきた魔物を買い取ってもらうため、冒険者ギルドに来ていた。
査定が終わるまで暇だから、掲示板を見ていると、後ろから声がした。
「お嬢ちゃん、一人かい? 良かったら、あっちで食事でもどうだい?」
20歳前後に見える男が、後ろのテーブルを指さした。そこに4人の男が手を振っていた。
シリルは、可愛らしく微笑んだ。
「奢ってくれるなら、考えてもいいよ」
男たちは、大いに喜んだ。
「酒だ、酒を持ってこい!」
彼女がテーブルに座ると、ギルド内の空気はざわついた。誰かが小声でつぶやいた。
「またカモが引っかかった。……」
「乾杯、俺達の出会いに!」
「おっ、いい飲みっぷりだ! どんどんいこうぜ」
酔いが回ってきた頃、ひとりの男がすり寄って来た。
「なあ、これから俺たちの宿に来ないか?」
シリルは笑顔を崩さず、彼らを挑発するように答えた。
「飲み比べで勝てたらね。ただし、私が飲み干したら、あなたたちも同じように飲むこと。飲めなかったら、負けね」
「面白え、勝負だ!」
「もちろん。さあ、酒をどんどん持ってきて」
数時間後、男たちはテーブルに崩れ落ちていた。
シリルは涼しい顔で立ち上がり、軽く手を振った。
「ありがと。奢ってくれて。それじゃ、さようなら」
シリルはギルドの受付に寄って、金額を確認して、ギルドを出ていった。
既に日は落ちていて、すっかり暗くなっていた。
宿に帰り、窓の外を見下ろすと、街灯がぼんやりと石畳を照らし、静寂な街に満月の光が銀色の輝きを与えていた。
一週間ぶりのただ飯ただ酒に気分も良かった
そんな時、嫌な気配を感じ、すぐ神剣を手にした。
「間違いない魔物が近くにいる!」
シリルはすぐに窓から飛び出し、魔物の気配のする方へと飛び出していった。
「街中に魔物? どう言うこと?」
屋根から屋根へ飛び移り、気配のする路地裏に向かった。
人らしき姿が見えたが、魔物に間違いなかった。
「魔人!」
魔人の赤い目が一瞬きらめいた瞬間、シリルは全力で剣を振り下ろした。
その瞬間、魔物は霧のように消え去り、彼女の目の前から姿を消した。
「くそ、逃がした?」
次の瞬間、地面からゾクっとした感触がして、黒い触手が右脚に巻き付き、激痛が走った。
すかさず神剣を振って触手を切り裂いた。
「グワーッ!」
甲高い小さな声がして、触手は消え、魔人の気配も消えた。
さっと屋根に飛び上がり、神剣を構えた。
「じっちゃんの仇!」
シリルの怒りが爆発し翠の瞳が金色に輝いた。
街の中には精霊が少ないが、その全てが呼応した。
「逃がさない!」
その思いに精霊が答え、魔人の隠れている場所を告げた。
「そこか!」
遥か遠くの公園に、風が導くまま一直線で飛んでいった。
そして神剣が指し示す場所を突き刺した。
掠った感触はあったが、またしても避けられた。
だが、魔人は風の壁にぶつかり一瞬止まってしまった。
シリルはその一瞬を逃さなかった。神剣が魔人の胸を貫いた!
「馬鹿な! 人間ごときに後れを取るとは……」
「じっちゃんの仇!」
彼女は神剣に力を込めると、神剣の光は強まっていき、魔人を溶かしていった。
その魔人は羽をはやしていた。赤く光る目が睨んでいたが、やがて目から光が消えて、全身が光の粒となって消滅した。
「じっちゃんの仇じゃない?」
そう直感し、シリルは意気消沈し、宿に帰っていった。
翌朝、シリルは冒険者ギルドに出向いて、魔人のことを伝えた。
すると受付嬢は、すぐに奥に走っていった。
しばらくしてサブマスターが現れた。
「ギルドマスターが詳しい話を聞きたいそうです」
そう言って、ギルドマスターの部屋に案内された。
シリルが部屋を出た後、ギルドマスターのゴーチアンとサブマスターが渋い顔をしていた。
「どう思う?」
「確かにヴァンパイアの特徴に一致してますね」
「ヴァンパイアは全て討伐されたはずだが……」
「でも実際に街中に現れたのです。由々しき事態ですよ」
「領主様、長官、他のギルドに報告してくれ」
「はい。教会はどうします?」
「変な噂が立っても面倒だ。教会の方は領主様に任せよう」
「了解しました」
ヴァンパイアは魅了を使って人間を支配する。かってひとつの国が支配されてしまったことがあったのだ。だから冒険者ギルドだけで、どうこうできる問題ではない。国が対応しないと大変なことになる。
ギルドマスターは葉巻に火を付けて、天井を見つめた。
「大変なことになった……」
「大変です。ギルマス!」
受付嬢が大声で扉を開けて入ってきた。
「今度はなんだ!」
ギルドマスターは驚き、立ち上がった。
「シ、シリルさんが……昨日の冒険者に連れられて、森の方に向かったと……」
「は~ぁ? またか? ほっとけ! 自己責任だ」
「で、でも森の魔物がやってくるかも……」
「くそ、サブマス、ここは任せた。俺が暇なやつらを連れて、そのバカ冒険者を回収してくる」
「ギルマス、いつもご苦労様」
「あの暴風エルフは、少しはお淑やかにできないのかね」
サブマスは笑った。
「でも暴風エルフが、侵入したヴァンパイアを倒してくれて、大助かりですよ」
「まったくだ。くそ!」
ギルドマスターはぶつぶつ文句を言いながら出ていった。




