第13話 暴走エルフ
第2章完結
一年後、ギルドは『双頭の青鷲』に銀等級昇格のチャンスを与える任務を与えた。
街道沿いの村人全員が一晩で姿を消したのだ。
この異常事態の調査は、騎士団の仕事だったが、手詰まりとなり、冒険者ギルドに依頼が回ってきた。
「双頭の青鷲」は村の東の方角、川沿いに山の中を調査した。
シリルが北を指さした。
彼女の魔物を察知する能力はずば抜けていた。
精霊が警告を告げると、何となく危険が迫っていることを感じたし、神剣は敏感に魔物に反応したからだ。
斥候サムニエも、こと魔物に関してはシリルの言葉を信じて疑わなかった。
彼女を信じ、全員が慎重に歩を進めた
しばらくして、シリルは小さな洞窟を指さした。
「あそこの奥から魔物の気配がする」
みんな嫌な顔をした。
「洞窟か、しかも入口は人ひとり通るのがやっと……」
洞窟の出た先で、魔物に襲われればひとたまりもない。
女魔法使いマティアとシリルが洞窟の入口に立った。
「炎で中を焼くわ」「ボクが見てくる」
トマスが、やれやれという顔で二人を止めた。
「待て!村人がいたら焼け死ぬか、戦闘の巻き添えで死ぬ」
マティアとシリルがしょんぼりと項垂れた。
「俺がいく」
トマスが中に入ろうとしたが、ウルティニカがトマスの腕を引っ張った。
「ダメ!危ないわ」
ウルティニカが心配してくれるのは嬉しかったが、銀への昇格がかかっている。
ここで引くわけにはいかなかった。
「リーダーの俺が行く」
そう言って四つん這いになって入っていった。
すぐにトマスの声が聞こえた。
「大丈夫だ。みんな来てくれ」
そう声に皆安堵し、入っていった。
「光よ」マティアは光源を出して辺りを照らした。
洞窟の中は空洞になっていて、さらに奥に続く洞穴が3つあった。
シリルは真ん中の洞穴を指さした。
「この先に大きい魔物や小さいたくさんの魔物がいる。気を付けて」
ダランタンが盾を構えて先頭を進んだ。トマス、サムニエ、シリル、マティア、ウルティニカの順で後について行った。
しばらくして、大きな空洞に出た。そこはクモの魔物ジャイアントスパイダーの巣だった。そしてたくさんの繭があった。
トマスが呟いた。
「当たりだ」
「調査完了。すぐに引き返そう」
サムニエが静かに後ろを指さした。
みんなが後ろに下がった時、ジャイアントスパイダーの目が赤く光って動き出した。たくさんの子スパイダーも同時に動き出した。
「しまった!マティ、ウルは直ぐに洞窟を出ろ!とにかく下がれ!」
ダランタンが盾でクモを押しのけ、サムニエが双剣を振りまわし、トマスが剣で切って、子クモを殺していったが数が多すぎた。
そんな中、シリルが凶悪な笑顔になっていた。
「見つけた!殺す!」
赤目のジャイアントスパイダーの頭が魔族を彷彿とさせたのだ。
シリルはひとり飛び出してジャイアントスパイダーに切りかかった。
「シリル!もどれ!」
トマスはシリルを連れ戻そうと子クモの中に突っ込んで行った。
「痛!しまった!」
トマスは子クモに噛まれて、痺れて膝をついた。
「トマス!」「いま助けるわ」「無茶するな」
みんながトマスの周りに集まり、マティアが自分たちの周りに火球を降らした。
「火球弾」
近くのクモは燃え死んだが、トマス達も火傷した。
「きゃー!」「あちー!」「何するんだ」
マティアが叫んだ。
「今のうちよ、出口の方へ、ダランタンは盾で出口を塞いで!」
洞内に入るとダランタが盾で穴を塞いだ。
ウルティニカがみんなに、すぐに癒しをかけた。
「なんで戻ってきた!さっさと洞窟から……」
「そんな事できないわよ、バカ!」
盾で穴が塞がれ、子クモは少しづつしか侵入できずに、トマス、サムニエ、ダランタンに倒されていった。
マティアは盾の隙間から周囲に炎を出して、近づく子クモを焼き続けた。
「シリル……」
トマスがそう呟いたとき、ウルティニカが目を見開きトマスを平手打ちした。
「暴走エルフと私、どっちが大切なの!」
トマスが俯き無言になったとき、遠くで「ざまーみろ!」と言う声が聞こえてきた。
シリルが洞窟に入ると、魔物の気配を感じ興奮しだした。
すると周囲から多くの精霊が集まって来た。
「見つけた!殺す!」
シリルが感情を爆発させると精霊が呼応した。
風、火、雷の精霊が周りを囲んで、シリルの周りは竜巻のようになった。
ジャイアントスパイダーが糸を吐いた。
しかし風で逸れて、火に焼かれ消えていく。
ジャイアントスパイダーが四つの脚を振り回し、彼女に切りかかる。
シリルはギリギリで躱して、目玉の一つを剣で刺す。
ジャイアントスパイダーは叫び声を上げて暴れ、糸を吐き、脚をばたつかせた。
シリルは飛び跳ねて、別の目玉を潰した。
彼女は目玉だけを執拗に狙った。
8個全ての目玉を潰されたジャイアントスパイダーは地面に落ちてのたうち回った。シリルはジャイアントスパイダーの頭に神剣を刺して、力を込めて押し込んだ。
神剣が光り出すとジャイアントスパイダーの頭は砕け、息絶えた。
「ざまーみろ!」
シリルが大きく吠えると、シリルの周りの暴風は広がり、子クモを一掃した。
トマスたちが近づくと、彼女はジャイアントスパイダーの体を何度も何度も切り付けては大声を上げていた。
もはや金髪の可愛いエルフではなかった。
暗緑色のクモの血を全身に浴び、残忍な笑みを浮かべた魔物のように映り、トマスたちは身震いした。
ジャイアントスパイダーに捕まった人の半分は助かった。
「双頭の青鷲」は銀等級に昇格し、シリルも銀等級になった。
ジャイアントスパイダー討伐の報酬と領主からも金一封が出た。
こうして「双頭の青鷲」は一躍人気者になった。
それから1週間後、トマスたちはシリルの前に座っていた。
重ぐるしい沈黙が続いたが、トマスが口を開いた。
「シリル、君とはもうやっていけない。すまないがパーティーを抜けてもらう」
シリルは、じっとトマスたちを見ていたが、やがて立ち上がった。
「いままでありがとう」
彼女は振り返らずに出ていった。
泣きそうになるのを、ぐっと堪えていた。
「ひとりで生きていこう」
シリルはそう決心し、スルアタの街を去った。




