7 怪異の対処法
応接用のソファーに腰掛ける高校生くらいの女の子を認めると、心の中でため息をつき、挨拶もなしに山下は正面に腰掛けた。
「アンタか、俺に用があるってのは? なんだ?」
日野裕子は、深々と頭を下げて山下に丁寧に挨拶をする。
「突然押しかけてすみません。私は日野裕子と申します。先日、私の弟がとある事件に巻き込まれまして……」
そして、真っ直ぐに山下を見つめ真剣に訴える。
「N町でA小学校の生徒が誘拐された事件をご存知でしょうか? 私の弟、ヒノタがその事件で唯一無事1人帰還した子どもなのです」
山下は頷いた。
隣の県の事件だからよく覚えている。
「ああ、神隠し、とか言われてるヤツだな。帰ってきた児童……アンタの弟だったな、彼も意味のわからない証言をしていて、目撃証言も証拠もなく、捜査が進んでいない、と聞いたことはある」
「弟は…… 女の子に化けたバケモノに友達が攫われたと、一貫して主張しています。当然のことながらそんな証言、子どもの戯言と信じられるわけもなく……」
山下は呆れたように裕子を見つめた。
方々駆けずり回ったのだろう、目の下の隈は彼女の焦燥と疲労を表していた。
「アンタは弟だからといって、そんな証言を信じてるのか?」
裕子は真面目な表情で、山下を見つめ返し頷く。
「……初めは私も信じられませんでした よっぽど怖い目にあったから、妄想の中で作ったヒノタの虚構だとすら、考えました。でも、あれからひと月たっても、ヒノタは必死でそう主張し続けてるんです…… あの子は友達思いで、そんな嘘をつく子じゃありません。だからこそ、何とかしてやりたいと、あなたを訪ねてここまでやって来たんです」
真面目そうな子だ。
彼女は地に足をつけた思考で山下に会いに来たのだろう、と思い至ると、逆に嫌な気分になった。
山下は天井を仰ぎながら、必死で惚ける。
「おいおいおい、アンタが何を信じようと勝手だが、何で俺に会いに来ることになるんだ? アンタには俺が霊能者に見えるのか? オカルト専門部署なんて警察にはねえぜ? 気の毒とは思うが他を当たりな」
しっしっと手を払うような山下に、裕子は追い縋るように声のトーンを強める。
「いえ! あなたはオカルトの存在を知っているし、本当はバカに出来ない話だと思っているはずです!」
応接間の空気が静まり返り、暫しの沈黙が訪れる。
山下と裕子が無表情なまま見つめ合い、そして裕子は静かな口調で切り出した。
「そうでしょ……? ねえ、山下警部。3年前、東京の連続通り魔事件を解決したのはあなたですよね? ある日パッタリと刺殺事件は止まった。5人も刺殺された大きな事件の顛末はマスコミに報道されなかった。なぜならその事件の犯人が……」
そして、切り抜き記事や事件の顛末を纏めた手帳をバッグから取り出して机の上に置いた。
「人間に取り憑いた妖怪だと言われてるそうですね。そんな戯言みたいな事件、報道できないですよね。私はオカルトのような事件をどうやって解決したのか、あなたに聞きにきたのです」
山下は無表情のまま、焦燥に駆られた裕子の顔をじっと睨み続けた。
「……どうやって異形の怪異を退治したか、教えてください」
裕子は山下から目を逸らさず、じっと耐えるように表情を動かさない。
それは答えを聞くまでは帰らない、という決意の表情だった。