6 F署の昼行灯
相変わらずの事務的な口調で、担任はヒノタを己の横に立たせて、みんなの前で説明する。
「皆さん、ヒノタくんが今日から学校に戻ることになりました。記憶が少し曖昧になっているようなので、質問は避けてくださいね」
半月の入院期間を経て、ヒノタは学校に復帰することになった。
警察や3人の親からは、失踪当時のことを色々と聞かれることになり、ヒノタはもちろん何から何まで話したが、一つだけ誰にも信じてもらえないことがあった。
バケモノが3人を影に飲み込んだという話である。
帰らない友達を思いながら、ヒノタはもどかしい思いで事件解決を願っていた。
必死で警察や先生たちに、バケモノの話をするが、やはり信じてもらえない。
絶望していたヒノタが、校庭の隅で座っていると声をかけてくる者があった。
「……おい、ヒノタ」
「なに?」
見るとクラスメートの男子たちであった。
ゴリアンたちに出会う前はヒノタはこいつらによくいじめられていた。
憎々しげに男子たちはヒノタを睨む。
「ゴリアンたちは誰に攫われたんだよ⁉︎ なあ! 一緒にいたんだろ?」
「お前、バケモノに連れていかれたとか言ってるらしいな? この嘘つき!」
ヒノタは立ち上がり、猛然と抗議する。
「嘘じゃないよ! ゴリアンも! キザオも! シズキちゃんも! ……みんな女の子の姿をしたバケモノの影に飲み込まれちゃったんだ!」
そんなヒノタを男子たちは馬鹿にしたように笑った。
「よくもそんな嘘をつけるもんだな! お前だけ誘拐犯から逃げてきたんじゃねえの? みんな、お前なんかよりゴリアンたちが助かればよかったのにって言ってるぜ!」
「お前は臆病だから何も覚えてないんだよ、このバーカ!」
余りな言いようだったが、ヒノタ自身も彼よりゴリアンたちが助かればよかったと思っていたので、それに関しては何も言うことがなかった。
それでも、バケモノの話を信じてもらえなければ、対策すら練れず、ゴリアンたちを助けられないことはヒノタがよくわかっていた。
「嘘じゃないったら! ……シズキちゃんは足を挫いたから、置いて逃げろって言ってくれたんだ!」
「何言ってんだ、こいつ。本当だとしても最低だな!」
「ふん! とにかく俺たちはお前と仲良くするつもりも、友達になるつもりもねーから!」
「ゴリアンたちに謝れ! バーカ!」
そう言って男子たちは、軽蔑した眼差しをヒノタにくれると去っていった。
残されたヒノタは泣きながら途方に暮れる。
「うう……! 誰も僕の言うことなんか信じてくれない……」
◇
F署の屋上にプカプカと紫煙が浮かぶ。
無精髭の男が遠くの山を見つめながら、退屈そうに煙草を吹かせていた。
そうしていると、背後のドアが開く。
「山下警部。またこんな所でサボりですか?」
振り返ると、後輩の刑事が手帳片手に呆れたような顔をしていた。
「サボりじゃねえよ。なんだ? 俺に何か用か?」
山下が聞くと、後輩刑事は頭をかきながら用件を伝える。
「娘さん、ですかね? アンタに会わせてくれって女の子がきてるんで、応接室に通してますよ」
「名前言ってたか?」
「日野裕子って名乗ってましたけど、奥さんの旧姓ですかね?」
一年前に別れた際に妻が連れて行った娘が会いにきたか、と少し期待した山下は舌打ちし、露骨に嫌な顔をする。
「娘じゃねえよ。おい、ロクに確認もせずに通すんじゃねえよ」
肩をすくめながら後輩刑事は、山下に背を向け、もう行こうとする。
「いいじゃないですか。どうせあんた暇でしょ。制服を着た真面目そうな子でしたよ。アンタなんかを頼ってきてるんだ。話くらい聞いてあげれば?」
そして、背を向けたままぞんざいな物言いであちらへと行ってしまった。
「じゃあ伝えましたからね」