5 帰還
それから数十分ほど走っただろうか。
ヒノタにとっては気の遠くなるような長い時間に感じられた。
運動に自信はない。
しかし捕まるわけにはいかなかった。
自分が捕まれば3人の状況を伝えて、助けに行く者がいなくなるのだから……
「はあっ……! はあっ‼︎ うぅ! ……やっと街だ……」
森の木々が途切れ、ようやく街の灯りが見え、人家の隣りに立つとヒノタはその場にへたり込む。
張っていた気がプツリと切れたように、疲労や恐怖がその身に押し寄せてきた。
途中、何度も転んだせいで、顔や身体中痣だらけで口の中も切っていたのだが、逃走中はそんなこと気にもならなかった。
そうしていると、通りがかりの者が心配そうにヒノタに近づいてきた。
「おい、君? 大丈夫?」
「怪我してるじゃないか! どうしたの⁉︎」
ヒノタは大人たちの顔を見て、一気に感情を爆発させ、泣き始めた。
「ううう……! みんなが! ……みんながバケモノに連れてかれて……!」
大人たちは顔を見合わせ、珍妙なものを見る目でヒノタを見るが、形振り構ってはいられない。
「助けて! みんなを助けてください!」
ヒノタはそう叫ぶと、糸が切れたように地面に伏せ気絶した。
「お、おい! 君⁈」
「救急車! はやく救急車だ!」
柔らかな光の奥から、聴き慣れた声が聞こえる。
「ヒノタ! ヒノタ!」
ヒノタが目を開けると、そこには涙を湛えた姉がじっと見守っていた。
「……うぅ おねえちゃん?」
そして、日野裕子は数日ぶりに目を覚ました弟に思い切り抱きついた。
「ああ……! よかった! ヒノタ!」
姉と2人暮らしの日野家にだけ、普段の暮らしが戻ろうとしていた。