3 恐ろしいかくれんぼ
日の落ちかける森の中を、女の子の小さな嗚咽だけが響いていた。
シズキは泣きながら木の影にうずくまる。
「うっ……! うう…… こわいよお!」
「シズキちゃん…… 泣かないで」
「もうちょっと声を小さくして! アイツにみつかる!」
3人は息を潜めながら、それでも急いでこの場から逃げなければならなかった。
本物の隠れ鬼が友達の1人を影へと取り込んでしまったのだから。
キザオは2人を励ますように、小さな声ながらもしっかりと言い聞かせるように話す。
「大人に信じてもらえるかわからないけど、街に戻ってゴリアンを助けてもらわないといけない! 僕たちは捕まるわけにはいかないんだ!」
そして、彼らを捕まえようと森を徘徊する女の子に出くわしそうになる度に、息を潜めて草原や木の影の死角に息を殺して隠れる。
「止まって!」
「もう少しだ…… 我慢して! 通り過ぎるぞ」
ヒタヒタ、と森の影に響くような不気味な足音と共に、恐ろしい微笑みを纏った少女が辺りを見回しながら通り過ぎる。
3人が息をついたその時だった。
「……みーつけた! そこだね! うまく隠れたね!」
木の影から顔を出した少女が、草原に潜んだ3人を嬉しそうに見つめていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「やばい! みつかったぞ! 早くはしれ!」
3人は慌てて一斉に駆け出す。
泣き出すシズキを2人が必死で引っ張る。
「うぅ! こわい! こわいよぉぉ!」
女の子はニタニタと笑みを浮かべながら、まるで3人をなぶるように少し後をつけるようなスピードで迫ってくる。
「アイツ! 速いぞ! このままじゃ追いつかれる!」
「どうしよう……!」
キザオは何かを決心したように、駆けながら懐からお守りを取り出してヒノタに手渡した。
それは本物の祈祷師に作らせた、霊験あらたかなお守りであった。
「おい! ヒノタ! これはお前に預ける!」
「えっ? なんで……」
「シズキちゃんを連れて逃げるんだ! そして大人の助けを呼んでくれ! 頼んだぞ!」
そう言うと、キザオは方向を変え、女の子へ向かって突進していった。
ヒノタとシズキは思わず叫ぶ。
「キザオ! やめろ!」
「キザオくん!」
そして、キザオは女の子に向かって拳を振り上げた。
「おい! バケモノ女! お前がバケモノだなんて聞いてないぞ! ゴリアンを返せ!」
女の子は嬉しそうに笑うとキザオを指さす。
「ふふっ! キザオくんみーっつけた!」
すると女の子の影から腕が伸びて、キザオを掴みズブズブと影の中へと引き摺り込む。
「ううっ……! やめろぉっ!」
キザオは必死にもがくが、その影のような腕は緩まることはない。
必死の抵抗も虚しく、キザオの身体はとうとう影へと飲まれてしまった。
「キザオぉぉぉぉぉぉ⁉︎」
「ヒノタくん! だめよ! 逃げないと!」
「うぅ……」
2人は涙を飲みながら、その場を全力で逃げるしか出来なかった。
女の子は嬉しそうに笑いながら、2人の逃げる方を見つめる。
「お友達をかばって捕まるなんて泣かせるわね! 今までも中々いなかったわよ? でもね…… そんな子でも私は勘弁してあげない!」