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バケモノはまるで蛇の姿になり、必死で追いかけてくる。
「ヒーーノーーターー‼︎ まてぇぇぇぇぇ‼︎」
藁人形は主に手で木の枝を掴みながら、ゴリラのように高速で移動する。
ヒノタは片足になった藁人形に乗りながら、余裕で煽った。
「ははっ! お前の敗因は、僕と藁人形くんを舐め過ぎたことだよ!」
鬼は赤い目をぎらつかせながら叫ぶ。
「生意気な‼︎ 捕まえたら今度こそその人形を破壊して! お前もひどい目にあわせてやる!」
ヒノタはチッチっと顔の前で指を振った。
「無理だね。忘れた? かくれんぼの約束は……」
そう、1時間逃げ切ればヒノタの勝ちである。
「あと10秒で1時間だよ!」
バケモノは恐ろしい雄叫びをあげ、猛スピードで迫ってくる。
「クソガキィィィィィィ!!!」
ヒノタはじっと腕時計を見つめる。
「5…… 4…… 3……」
豆粒のようだったバケモノがグングンと迫ってくるが、ヒノタは余裕でその様子を見つめる。
「マテェェェェェェェェ‼︎」
「……2 僕たちの勝ちだ!」
そして、ヒノタは舌を出してバケモノにアカンベェをした。
「グェェェェェェェ‼︎」
呪により、約定に敗れ、バケモノは光の粒子のように散っていった。
藁人形は止まり、ヒノタはその場で足を震わせる。
バケモノを、なんとか悔しがらせてやった。
「ありがとう、藁人形くん」
そして、ヒノタは藁人形の頭を軽く叩いた。
◇
呪道はペンダントを掴み、バケモノの敗北を察知する。
「おっ。ヒノタがやったようだな」
山下も時計に目をやり、ホッとした。
「ちょうど1時間か……」
「ヒノタ……」
「隠れ鬼は得意のかくれんぼで子どもに負けてしばらく動けねえ。さあ、ゆっくり本体を探して調伏するぞ」
そして、しばらく手分けをして辺りを探していると山下が声を上げた。
「おおい! 呪道、これじゃないか?」
見るととりわけ立派な小さな石像だけが、小さな社に囲われ保存状態がよかった。
呪道もこれを見て頷く。
「これっぽいな」
そして、呪道は懐から小さな石仏を取り出し、手を合わすと目を閉じて念じ始めた。
「まつろわぬ神よ。人の世に害を成すのはやめたまえ。今からこの石仏に御魂をうつし、奉ることを約束しよう」
あの隠れ鬼は、まつろわぬ、忘れられた神が妖怪となった姿だった。