16 卑劣な隠れ鬼
ヒノタは影となってしまった友達に囲まれ、泣きながら後退りする。
「……うう」
バケモノはニヤニヤと笑いながら、ヒノタの反応を楽しんでいるようだった。
「さあ、影の世界に行きましょ? ゴリアンくんたちともずーっと! 一緒に遊べるわよ?」
「……くっ!」
ヒノタは地面に床をついて、涙を流した。
バケモノはそんなヒノタの顔を覗き込みながら、楽しそうに笑った。
「どうしたの? ヒノタくん? 影の世界に行けばもうつまんない勉強なんかしなくてもいいのよ? ゴリアンくんたちもそう願っているわ」
「……さい」
ヒノタの呟いたような声が聞こえず、バケモノは耳を近づける。
「ん? どうしたのかな?」
ヒノタは涙を拭い、バケモノに怒りの罵声を浴びせた。
「うるさい! バケモノ! 汚いぞ! ゴリアンもキザオもシズキちゃんも! そんなこと言わない! 僕の友達を返せ‼︎」
その時、藁人形がヒノタを掴み、ジャンプしながらあっという間に去っていった。
どうやら藁人形は、片足で飛びながら移動しているらしい。
「グッ……! クソガキィィィィ!」
残されたバケモノは鬼の本性を表し、恐ろしい形相となった。
◇
呪道と山下は子どものような影にしがみつかれて、身動きが取れなくなる。
裕子は馬の上から悲鳴を上げた。
「ああっ! 呪道さん! 山下さん!」
呪道は無数の影人間に羽交い締めにされ、身動きが取れない。
「クソッ! 動けねえ!」
山下も同様で、動く首で呪道の方を振り向く。
「なんとかしろ! 呪道!」
「ムリだな……!」
「クソッ! お前を信じた俺がバカだった!」
2人を見て、まるで笑うように白蛇が雄叫びをあげた。
「ギシャアアァァァァ!」
しかし、呪道は余裕の笑みを崩さない。
「オイオイ、情けねえこというなよ。まだ手はある。おい! 嬢ちゃん! バッグの中身をぶち撒けろ!」
「……エッ?」
驚く馬上の裕子に呪道は畳みかけるように叫ぶ。
「はやくしろ! ヒノタもあぶねーぞ!」
「わ、わかりました! ……えぇい‼︎」
裕子は馬で駆けながら、バッグの中身をぶち撒ける。
そうすると、ロケットペットボトルが数本地面に落ち、まるで生きているかのようにその場から飛び始めた。
そして、水を撒き散らしながら辺りを跳び回る。
もたろん、込められていたのは聖水である。
「……キシャァァァァァァ‼︎」
影人間はズブズブと地中へと戻っていく。
白蛇は聖水を浴び、やがて露のように消えていった。
「よし! 消えてろ! バケモノ!」
呪道たちは解放されて、ようやく自由となり息をつく。