15 影人間
ヒノタは頼りになる藁人形の背で勝利を確信していた。
「よし! よし! これなら逃げ切れる! 僕が練習しなくてもよかったんじゃあ……」
しかし、地鳴りのように恐ろしい声はまだまだ追いかけてくる……
「……ひーのーたーくーん!」
「ヒィィィィィィ⁉︎」
ヒノタが振り返ると隠れ鬼が笑顔で、鎌を持ち追いかけて来ている。
そして、恐ろしい掛け声とともに鎌を投げつけてきた。
藁人形は足元に飛んできた鎌を飛んでかわすが、しかし、鎌は生き物のように自在に動き、藁人形の右脚を膝から切り裂いた。
「藁人形くーーーん⁉︎」
藁人形が倒れるとともに、ヒノタは地面に投げ出される。
「うう……」
ヒノタは所々擦り傷を作るが、気にしている暇はない。
(はやく逃げないと……)
しかし、ヒノタの決意も虚しく、起きあがろうと顔を上げた先に隠れ鬼がいた。
鬼は余裕を取り戻したのか、女の子の姿に戻っている。
「さあ、邪魔者は壊しちゃった。逃がさないわよ……⁉︎ ヒノタくーーん! 君のお友達も呼んでるんじゃないかな?」
ヒノタは悲鳴を呑み込み、息を荒げる。
考えてみれば、友達の仇から逃げ回るなんて本当に腹立たしいことだった。
「……うるさぁーーい! バケモノ‼︎ 僕の友達をかえせ!」
ヒノタは今までに出したことのない声を出し、怒りをぶつける。
しかし、隠れ鬼はそんなヒノタを嘲笑うばかりであった。
「ふふふふ! いいのかなあ? そんなこと言っちゃって? わかった! わかった! ほら、お友達よ!」
そう言って隠れ鬼はヒノタの背後を指さした。
ヒノタは振り返り、唖然として目を見開く。
「……えっ? うわあっ⁉︎」
そこには影のように黒くなった大柄の太った少年がいて。
「 ゴリアン⁉︎」
前髪がツンツンした黒い影のような少年がヒノタをみつめる。
「キザオ⁉︎」
三つ編みの影のような少女がヒノタのそばにいた。
「シズキちゃん⁉︎」
驚いて動けないヒノタに、隠れ鬼は微笑みかける。
「うふふ! みぃんな、影の世界の住人になったのよ? ね? みんなと一緒に遊びましょ? ずーっと! 永遠に! ね⁉︎」
◇
山下が発砲し、蛇に銀の弾丸が命中する。
「ガァァァァ……‼︎ ギャアアア⁉︎」
そして、すかさず呪道が取り出した水鉄砲を構え、浴びせた。
「ギャァァァァァァ⁉︎」
水を食らった白蛇がもんどり打って、煙を上げながら溶けていく。
「霊山の清水に僧侶の祈祷を重ねた聖水だ。どんなバケモノでもイチコロさ」
「よし! はやくやっちまえ! 呪道!」
「ハイハイ」
呪道が水鉄砲を手にヘビに近づいた時だった。
「……ブシャァァァァ‼︎」
蛇が助けを呼ぶように牙を剥き、雄叫びをあげる。
「なんだあ?」
すると、辺りの木の影が揺めき、ザワザワと音を立て始めた。
呪道は肌にぞわりと違和感を覚える。
「チッ! やべえな……!」
影が揺らめくように人影を象ったと思うと、影でできたような沢山の人間が辺りを取り囲んだ。
山下は影たちを指さし、思わず叫ぶ。
「おおい! なんだありゃあ! 人間か⁉︎」
「影人間だ……! クソッ! バケモノめ! 今まで取り込んだ子どもを盾にしやがったぜ! 汚ねえ!」
その影たちは、確かに子どもほどの大きさで、じっとこちらを覗くように見つめていた。