14 頼れる藁人形
藁人形の背に掴まりながら、ヒノタは問いかける。
「藁人形くん。君、喋れないの？」
藁人形からは返事がなく、一心に木々の間を飛び交い、走り続けるばかりである。
「そうか、ありがとう。でもまだ油断しちゃダメだよね。アイツはバケモノなんだから……」
その時、地の底から轟くような恐ろしい声が耳に突き刺さる。
「ギャヒヒヒヒヒ‼︎ ヒノタくーーん！ つかまえてあげるーー！」
振り返ると猛スピードで、隠れ鬼が笑みとも怒りともつかぬ恐ろしい形相で追いかけて来ていた。
ツノも先程より伸び、覗く牙は鋭く、もはや人の形を取り繕う気さえないようだった。
「ヒィィィィィィ⁉︎ もうきたぁ！」
そして鬼は凄まじいスピードで、飛び跳ねると、あっという間に距離を縮めて来た。
しかし、藁人形は鬼に合わせて飛び跳ね、木の枝に掴まると、身体ごとクルクルと回り鬼へと蹴りを食らわせる。
「グァァァァ‼︎」
「藁人形くん？ ……うわぁぁぁぁ！！」
バケモノは吹っ飛び、同時にヒノタも藁人形の背から落ちてしまうが、慌てて藁人形はヒノタをキャッチした。
「無茶苦茶するなぁ…… でも窮地をのりこえたよ！ ありがとう！」
そして猛然と森の中を駆けていく。
鬼は顔を押さえて、ますます憤怒の表情を強める。
「……おのれぇぇ！ 呪術師め！」
「隠れ鬼」という呪に縛られているため、無闇に殺害出来ないのがもどかしかった。
鬼は呪道たちが自分の本体に近づいていることは察知していた。
しかし、鬼ごっこ中なのでこの場を放棄することは出来ない。
「だが、我が本体を調伏することなどできんぞ！」
◇
やがて体勢を立て直し、白い蛇は呪道たちを見て牙を剥く。
「ギシャアアァァァァァァァァ‼︎」
「キャアアアアア⁉︎」
悲鳴をあげる裕子を見て、呪道はリュックから取り出した藁で作った馬を出し、呪力を注ぎ込む。
すると、藁人形の馬は生きているように動き出した。
呪道は驚く裕子に反論を許さず、その馬に乗せる。
「悲鳴をあげるな、嬢ちゃん。しっかりそいつに捕まってな」
山下は人間の身体ほどもある大きなヘビを見て、驚愕していた。
「おい、どうすんだ⁉︎ 呪道！ とんでもないバケモンじゃねえか！ あれが本体ってやつか？」
「いや、本体じゃない。下っ端の小間使いだな。慌てんな。元はタダの石ころさ。アンタにも用意させたもんがあるだろ？」
「チッ……！」
仕方なく、山下は懐から拳銃を取り出すとヘビに向けて構えた。
「こい。バケモン。祓ってやるぜ」
そして、呪道と山下はヘビのバケモノに向き合う。
