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『ヤツは心から隠れ鬼と、子どもの恐怖を楽しんでやがる。と、同時に自分が決めた縛りから抜け出せねえ。一度かくれんぼを始めちまうと、中断出来ねえんだ。たとえ本体の心臓に刃物を突きつけられてようとな』
呪道の言葉を思い出しながら、ヒノタは森の中を全速で駆ける。
「……いーち! にーーい! さーーん!」
響いてくる女の子の声が恐ろしいが、恐怖は怒りで打ち消す。
「くっそ! ほんとろくでもないおじさんだよ!」
そして、大きな木のうろを見つけるとそこへ隠れた。
「この辺でアイツをやり過ごす…… 気づかないといいけど」
そうしていると、数分後女の子の声が聞こえてきた。
「ヒノタくーーん!」
心臓が跳ね上がるのを抑えながら、ヒノタは息を殺す。
「……もうきた!」
「どこかなー? ねえ、ゴリアン君たちに会えるよ? 影の世界に連れてってあげる!」
声が近づいてくると、ヒノタは全身の毛が逆立ちそうになる程震える。
うろから見えている女の子の足元が、ヒノタの前を通り過ぎていった。
「ねえ? ヒーノーターくーん! ここじゃないのかなーー?」
ほっとしたのも束の間、うろから出ると樹上の赤い目を見てヒノタは小さく悲鳴をあげる。
「へえ! そんなとこに隠れたんだ! すごいね!」
「ヒィィィィィィ?!!」
鬼の女の子が木の上に登って嬉しそうにヒノタを見つめていた。
ヒノタは泣きながらも全力で駆け出す。
『あの怪物は、数十年かくれんぼばかりしてきた、言わばスペシャリストだ。何度も見つかって、追われることは想定しておけ』
呪道の言葉を思い出しながら、ヒノタは怒りをぶつけるように叫んだ。
「そんなこといっても! アイツ速いし! 怖いよおお!!」
「あははははは!! ヒノタくーーん! まってぇぇぇ!!」
鬼はヒノタの背後10メートルほどを保ち、ぴたりと離れない。
まるで猫がネズミをいたぶるように、鬼はヒノタを余裕を持って追いかけているようだった。
「……もうダメだ! 元々無理だったんだ!」
その時、背負っていたリュックから藁人形が這い出し、ヒノタの顔へと張り付いた。
「うわぁ⁉︎ なんだぁ!?」
そして藁人形が光ると、人間ほどの大きさになり、ヒノタそっくりに化け彼の手を取る。
「藁人形が……!僕そっくりに?」
驚いているヒノタを背負うと、藁人形は木から木へと飛び跳ね鬼の視界から消えていった。
残された女の子は鬼の本性を露にし、赤い目と牙を見せ、凄まじい形相となっていた。
「おのれぇ……! 呪術師の使いか⁉︎ この生意気な小僧め‼︎」
◇
呪道たちは山の中腹ほどにある、何かの建物の跡に辿り着いていた。
そこには伝承通り、不思議なことに誰が整地したのか、木が取り除かれた10ha程はあろうかという建物の跡地があった。
それは遥か昔に建てられた何かの儀式の跡であるらしい。
朽ちた建物の残骸や、首のとれた石像などが居並び不気味であった。
「必ずあるはずだ。落ち着いて探せ」
「ヒノタ……! 無事でいて……!」
「まったく、業務外なんだがな」
やる気なさそうに無精髭をさする山下に、呪道は肩をすくめる。
「今更だろ? 最後まで付き合えよ」
「フン!」