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7話 日常

初めての連載作品です。

出血などの描写が今後出てきます。

自傷の描写も今後出てくるので、15歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

 変身を解き、結界の解除を依頼し、5人と1体はワイワイと話をしながら魔法公社へと戻った。

 法月が笑顔で出迎える。

「ご苦労様。お陰で、すぐに処理できた。

 また今後も突発的な魔獣の襲来があると思うけど、適宜連絡するから、その時は頼むわね」

「その、魔獣出没の原因について何か分かっている事は無いんですか?」

 瑞月の疑問に、全員が暗い表情になる。

「通常なら、魔獣を操っている魔人が直接手を出してきてもおかしくない程に魔獣を処理しているが、何者も姿を現さないから、自然現象なのでは無いかと言われている。

 今の現役世代たちが戦っている勢力とは魔獣の魔力の波長が違うことから、魔人の手によるとしても別勢力であることは間違いない。

 ある地区に限定して出没しているなどの規則性があって、はぐれ魔獣の大量発生の可能性と同時に、異界の勢力による何らかの侵攻の可能性も考えている。

 せめて魔人絡みだとして人語を解する魔人が現れてくれれば、まだ、対処の目的もわかるのだが……」

「魔獣の発生も右肩上がりで増えているし、そろそろ姿を現すんじゃないでしょうか?

 それまでは、地道に魔獣を倒していくしかないです」

 ぐっと意気込む萌音に他の4人全員が頷く。

「萌音にそう言われると、気持ちが楽になるよ。ありがとう。頼んだ」

 法月が目を細め、くしゃくしゃと萌音の頭や頬を撫でた。赤ん坊をあやして喜ぶような法月に対し、じゃれる猫のように嬉しそうな表情の萌音を見て、ムッとしたのは碧斗だった。

「ちょっと、法月さん、ヒトの彼女をあまり揉みくちゃにしないでください」

 と法月から萌音を引き剥がし、碧斗は萌音を抱き留めた。おととっ、とよろめきつつ満更でもなさそうに萌音が笑う。


 ――か。彼女?


 瑞月は平静を装いつつ、他の二人を見る。

 ぐぬぬと悔し気な表情を隠そうともしない依子。そして、碧斗と萌音の仲睦まじい姿に視線を合わせつつ、どこか遠いところを見ているような時雨。

 そこまで二人の仲が進展していたとは知らず、瑞月は内心驚いた。一方で、皆との別れ際には碧斗と萌音が良い感じだったのも事実。帰結する結果であったといえば、その通りだ。

 問題は、瑞月以外の二人。

 ちょっと尋常ではない想いを萌音に募らせている依子は、見ての通り、悔しそうに顔を歪ませている。いつもこんな感じなのだろうか。

 そして、表情に現れないが、瑞月は知っていた。時雨も萌音をいつもずっと見ていたことを。

 気持ちは、今もあるのかないのか。そこまでは読み取れない。

「すまない。可愛い妹や飼い猫みたいなモノだ。戯れたくなる気持ちを理解してほしい。なにせ、こうも毎日毎日限界まで働かされていると癒しが欲しくてね。

 ひとまず、今日はこれで一旦任務終了だ。皆、気を付けて帰りなさい」

『ヒトの彼女に……』などという碧斗の独占欲丸出しの発言に、ニヤニヤしている法月に送り出され、5人は報告後、早々に公社を後にした。

 時刻はまだ昼過ぎであり、あっさりと暇になった瑞月は、どうしようかと思案する。

 学校の勉強は、夜でも十分だし、折角オシャレしたのでショッピングもありだ。

 そうやって考えていると、萌音が急に後ろから抱きついてきた。

「瑞月!この後暇ですか?せっかく久しぶりに会ったんだし、遊びません?」

「へ!?えっ!?」

 てっきり碧斗とデートかと思っていたが、どうやらそうではないようだ。

 依子も誘ってくる。

「今まで連絡も取れなかったんだし、近況も聞きたい。今後も、5人で集める機会もそう多くはないから、よかったらどう?

 時雨も、碧斗も」

 碧斗は「当然」といつもの軽い調子だし、時雨も「あぁ」と淡泊だが頷いた。

「瑞月、だめ、ですか?」

 潤んだ瞳の萌音に見つめられて、断れる人間などいるだろうか、いやいない。

 自分の異常性を悟られたくなくて、今通う学校では友人を作ろうとしなかった。

 そして、普通でいるために、普通ではなかった頃の友人と別れた。

 だけどまたこうして、友人として仲良くなりたいと言ってくれている友人と、また通じ合えるのは嬉しい。

 普通ではなくなる日常に一歩踏み出すのが、ほんの少しだけ怖かったが、萌音の笑顔を前にして、そんなことを表に出すことはしなかった。

「わかった。じゃあ、お言葉に甘えて。

 お茶でもどう?この近く、お洒落なお店が多いって聞くけど、知ってる?」

 瑞月の返答に、萌音ははしゃぐ。

「知ってます!最近おすすめでお気に入りのお店があるんです!行きましょう!」

 そうして、瑞月はぐいぐいと萌音に引っ張られていった。

 


 結局その日は、カフェでのお茶に、ウインドウショッピングと久しぶりに遊んだ。

 普段、必要なものの多くはネットショッピングかスーパーで買い揃えていたから。

 歩き回って、沢山笑って、近況を報告して。

 魔法青少年として任務の話は一つもなく、ただただ高校生らしい休日を、かつての友と過ごして。

 瑞月は、幸せで、幸せな一日だったと怖くなった。

 そうして、夕暮れになって、流石に帰ろうということで、駅で皆と別れた。公社から移動し、家から離れたので、帰りは電車だ。

 駅のホームでぼんやりと一人立っていると、隣に人が並んだ。

「久しぶりの萌音は疲れたか?」

 時雨だった。

「あれ、この電車だっけ?」

「あぁ、途中で降りるが。それにしても、結構疲れたんじゃないか?」

 じっと、みつめてくる時雨に、瑞月は頬が熱くなる。夕暮れだから、赤くなっているのはわからないだろうが、恥ずかしい。

「萌音は相変わらず元気だけど、それで疲れた訳じゃないよ。一日の情報量と移動距離が多くて疲れちゃっただけ」

「そうか。

 普通と違うことは疲れるよな。楽しくても、ちょっとしんどい」

 それがまるで、今日のことだけでなく、変わっていく日常に怯える瑞月に対して言われているようで、瑞月は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

「ありがとう」

 理解してもらえていると錯覚してしまう程には嬉しくて、でもあまり嬉しそうにするのも気持ち悪く見えないかと心配になって、なんとか、一言、呟いた。

 けれど、元々口数の少ない時雨とは会話はそれ以上続かない。

 気まずい訳ではないが、少しもったいない気がした。

 何度も、会えるわけではないから。

 この魔獣出没事件が解決すれば、また元の生活に戻るのだろう。

 せめて、その間だけでも、時雨との思い出を紡いでおきたい。

 向かい側のホームを見ながら、瑞月は何を話そうかと思案する。

 そして、悩んだ挙句、口を突いて出てきたのは、自分でも思いがけない言葉だった。

「そういえば、萌音と青葉くん、付き合ったんだね」

「……あぁ。元々、仲良かったからな」

 

 ――あ。


 返答に、間があった。

 僅かだが、声が震えている。


 ――まだ、好きなんだ。


 やってしまった。と後悔するがもう遅い。 

「そう、だね」

 時雨の顔が見られなかった。



 それからほどなくして、高校生活と魔法青少年としての任務で、瑞月はハードなスケジュールをこなしていた。

 それなりの進学校に進んだため、勉強は予習復習共に量が多く、課題も多い。

 一方で、魔獣の出没情報が出ると、問答無用で駆り出される。

 特に瑞月の場合は、監視役兼万が一の処理係として必ず他の魔法青少年と行動を共にするように厳命されており、仲間と合流するまで身動きが取れないというジレンマに襲われていた。

 まったりした休日など存在せず、魔獣が現れずとも対策会議や、出現情報の精査など、魔法青少年としての活動もかなりバタついている状況だった。


「瑞月!一体、そっち行った!」

「全く、うじゃうじゃと……」

「依子!詠唱まだ終わらないの!」

 

 とある休日。一つ目の巨人が現れたとのことで、5人は久々に全員集合し、巨人と戦闘になった。

 一番槍の萌音は、杖を二振りの剣に変換し、構えると、碧斗の制止を聞かず、鈍い動きの巨人へ走り出し、巨人の体を一気に駆け上がり、その巨体を細切れのミンチへと変えた。

「どんなもんですか!」

 ひらりと着地し、4人が唖然としたまま立っている所へ、胸を張って萌音は戻ろうとする。

「も、萌音。ちゃんと、後ろ、見て」

 依子の震えた声に、

「え?ちゃんと手ごたえはありました……」

 そう言って振り返った萌音の目に映ったのは、ミンチの欠片ひとつひとつが一つ目の小人となってあちこちに倒れ、山になり、這い出して来ている光景だった。

「もしかして、私、やっちゃいました?」

 冷や汗をかきながら、萌音はあははと笑った。

 4人が4人、頭を抱えている。

 そうしていると、這い出して来た小人が、どこぞの悪役よろしく「イーッ!イーッ!」と叫びながら、5人のいる方向へ突進してくる。

 一体一体は小さくとも、群衆になれば、脅威だ。

 そうして、5人は極小の魔獣の群れと戦闘になった。

 肉弾戦を得意とするの瑞月は、小人をプツプツと潰していく不快感を感じないように、若干目を細めながら、蹴りや拳に魔力を込めつつ小人を粉砕していく。潰してみると、どうもこれ以上は再生しないようで、砂になって消えていく。だが、次から次へと無数の小人が湧いてくるので、きりがない。もしかすると、本体となる核があって、そこを潰さなければ終わらないかもしれないが、確証が持てない以上、虱潰ししていくしかない。

「これ、何匹位いるの?」

 げんなりとした瑞月の声に、誰も答えない。答えたくないようだ。

「耐久力はなさそうな魔獣だし、私が氷結と燃焼で一気に溶かすのが、一番面倒が少なそうね」

 至極面倒そうに、呪文使いの依子が呟いた。

「でも、2つ魔法を使うってことは、詠唱に時間かかるのでは……?」

 碧斗の疑問に、依子は更に嫌な顔をする。

「そうよ。でも、一匹一匹、潰していくのが永遠に続くよりはマシじゃない?

 私が詠唱を唱える間、小人の対処は頼んだわよ」

 依子の言葉に他の4人は頷くと、小人の軍勢に向かっていく。

 そして、依子の護衛をつけ忘れたことで、小人の何匹かが依子を襲い、依子の詠唱が吹き飛ぶという、最悪な事態を一度経験し、フォーメーションを組み直し、その隙に生き残ろうと逃げ出す小人を潰しに行き、などとてんやわんやの状態となり、萌音をはじめ、全員が精神的にかなり疲弊する状況に陥っていた。

 そして収拾がつかなくなる直前に、依子の二重詠唱が完成した。

「……六花永遠の檻車で眠り、灰燼と為れ」

 くるりと回した杖から、氷結の魔法が辺り一帯に降り注ぎ、一瞬にして、氷の世界が出来上がる。

 間を置かず、地面は急激に高温になり、氷ごと凍結した小人たちは溶け、一瞬にして蒸発した。

 5人の中で、誰よりも魔法少女らしい魔法を披露した依子は、満足げに息を吐いた。

「まあまあね」

 久しぶりの大規模魔法にご満悦の依子以外は、小さい魔獣の虱潰しに疲弊しきっていた。

「みんな。お疲れ様です……」

 申し訳無さそうな萌音の困り顔に、依子は大きく首を横に振る。

「大丈夫!久しぶりに大規模魔法を使うことができたし、あんなふうに分裂するなんて想定外。萌音のせいじゃないわ」

 ニコニコと笑い、依子は萌音に抱きつく。

「私が詠唱を終えるまで、守ってくれてありがとう!大好きよ!萌音!」

 その言葉に安堵している萌音の顔に、瑞月はヤレヤレと困ったように笑う。ややこしい事態になったのは萌音のせいだが、この戦闘で誰より魔獣を倒していたのも彼女だ。その彼女に落ち込まれると、こちらももどかしい。

 一方で、碧斗は顔面蒼白であった。

「よ、依子。ヒトの彼女に抱きつくのはやめてくれないか……」

「あら、女同士ですもの。問題がある?友情のハグよ。あなたみたいに邪な感情はないわ」

 碧斗の顔を見て、唇の端を上げニヤリとしたまま、依子は萌音に抱きつくのを止めない。

 言葉通りに読み解けば、ただの友情のハグだし、萌音はそう解釈しているようだ。

 グリグリと依子の豊かな胸を押し付けられても、萌音は動揺一つしていない。

「碧斗、いくらなんでも、依子にまでそんな変なこと、言わないでください。幼馴染なんだし、これくらいの事はいつもしてますよ?」

 純真無垢な萌音の言葉に、碧斗は二の句を告げない。

 だが、萌音以外の全員、依子の萌音に対する想いが、かなり碧斗のそれと近いものだと認識している。

 

 ――なんて面倒な三角関係なのかしら。


 面倒ではあるし、彼氏ができても尚、何か諦めきれていない様子の依子だが、瑞月としては、依子の嫉妬の矛先が自分に向かないなら何でも良いやという気分だった。萌音の家に世話になっていた時、依子の圧力は凄まじかった。『萌音の真の理解者は自分だ』とか『あなたは、萌音に近づくべきじゃない』とか、散々罵られたものだ。最初の頃は中々その嫉妬を躱すのに苦労したが、最終決戦の時、碧斗と萌音がボスに立ち向かうため、足止めとして依子と残った時は、何だかんだ互いに背中を預け、戦い、戦友になれたような気がする。その戦いの最中、敵の幹部の魔人に死角を突かれ、依子が危険に晒された時、瑞月は自然と身体が動いていた。腹で攻撃をまともに食らった時は、駄目かもと思った。実際、依子が治療してくれなければ、中々危なかったと思う。あの時、お互い命を助け合ったことで、言葉はなくとも分かりあえた気がした。戦いの後は、嫉妬から来る鮮烈な言葉も多少マイルドになった気がする。

 少なくとも、今、彼女の嫉妬の対象は碧斗なのだろう。大事な幼馴染で親友で、一言で表現できない切実な想いがそこにあって、萌音の幸せを想うからこそ、碧斗と萌音が恋人になったことに対して一筋縄ではいかない想いがあるのだ。

 せめて、自分から萌音を奪う碧斗に、意趣返しくらいさせてほしいというのが依子の気持ちなのだろう。

 大事な存在ではあるが、瑞月にとって萌音はそういう欲求の対象ではない。萌音を取り巻くおかしな三角関係には、第三者の視点から生暖かい目で見守るしかない。

 ただ一点。三角関係と言いつつ、その萌音を大事そうに見つめる時雨のことは気にかかる。

 碧斗と依子のキャットファイトにも似た睨み合いに対し、ハラハラするでもなく、ただ、萌音のことを困ったように、慈愛に満ちた表情で見守っている。

 時雨は、萌音を自分のものにしたいわけでは無いのだろう。ただただ、大事に思っているだけなのだ。

 

 ――なんて、私がそう思いたいだけなのかも。

できるだけ毎日連載の予定です。

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