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17話 飛行

初めての連載作品です。

15歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

 気がつくと、3人は空を舞っていた。

 月明かりだけが周囲を照らす、真っ黒な夜。

 眼下に果てしなく広がるのは、白く白く、遺骨のように白い砂。

「うわ。すご。なんか漫画で見たことある景色だ!」

「囚われの姫の奪還みたいなものだから、状況的にはその漫画に近いかもね」

 宙に放り出されたというのに、依子も碧斗も楽しげに会話している。

 二人の様子をジトっとした目で見つつ、落下しながら、瑞月は先を見据えた。

 棺のような、墓場のような印象を与える、白い城郭が、遠方に見える。

 魔法を使って移動すれば、すぐに辿り着きそうだが、砂丘の狭間に、敵が潜んでいる可能性は高い。

「二人とも、着地したら、すぐにあの城に向かって移動するから。

 恐らく、攻撃されると思うので、各々対処しつつ、各自、城の内部への潜入を試みて。

 中に不知火くんがいるはず。

 辿り着いた人が、説得ないし拘束の上、不知火くんを連れ帰る。

 特に、これといった作戦があるわけじゃない。

 質問は?」

「瑞月と合流できなかったら、ゲートって開かないの?」

「この上空に今落ちてきたゲートがあるから、そこに手をつけば、戻れる。

 そのように魔法陣は設定してある。

 あなた達が手を触れた瞬間、その場にあるものが全て地球に転移するから、異界の攻撃や魔獣ごと地球に転移する可能性もある。

 十分注意するように。

 異界に取り残された場合は、もう一度地球側からゲートを作って救出されるのを待つ。

 でも、まずは不知火くんを取り戻すのが先。

 付いてくる以上は覚悟してるでしょ?」

「まあね」

「わかった」

 気のない返事はいつものことだ。

 こういうときの発言は緩そうに見えて、押さえるところは押さえているのがこの二人だ。

 そうこうしているうちに、あっという間に地面が眼前に迫り、全員が魔力で落下エネルギーを相殺し、緩やかに着地した。

 その瞬間、音を立てて、砲撃が降ってくる。

 息つく暇も無く、3人は攻撃を避けつつ、散開した。

「早速か」

 碧斗は両手に銃剣を構え、敵のいる方角に走っていく。

「瑞月、捕まって」

 杖に乗って空中を舞う依子は、瑞月の腕を掴み、そのまま、滑空する。

 身体を揺らし、勢いをつけ、瑞月は依子の後ろに乗る。

「ここの雑魚どもは碧斗に任せましょ。

 私達は、城の中へ」

 そう言って依子は魔人、魔獣の間を高速ですり抜け、一気に城の前までたどり着く。

 後ろから追っ手が遠距離攻撃を仕掛けてくるが、魔法で防御することもなく、華麗に躱していく。

「飛んでくる攻撃があったらなるべく避けてるけど、躱わせないものは瑞月が払ってね」

 そんなことを言いつつ、結局一撃も当たらずに城の入り口と思われる門まで辿り着いた。

 遠目からでもわかる巨体の門兵らしき魔人が二人、槍を構えて待っている。

「瑞月、あの二人と門、まとめて潰して」

 遠距離攻撃は苦手だが、的が大きいので外すことはない。

「了解っ」

 両の手で大きな炎熱系の魔法の塊を作り出し、キャッチボールの要領で打ち出す。

 移動する二人よりも高速で放物線を描いたそれは、門に直撃し、爆発する。その爆風は門の前に立つ巨人の兵を吹き飛ばした。

 空気の流れから察するに、門にも穴が開いたようだ。

 勢いを殺すこともなく、依子は門を突っ切る。

 が、中に入ると、大きな回廊になっており、そこには外の比ではないほどの大小様々な魔獣がいた。

 躱し、躱していくが、前からも後ろからも、襲いかかる魔獣の熱が、じわりと迫ってくる。

 回廊の突き当たりには更に扉があり、大きな龍が翼を広げ、火を噴き、待ち構えていた。

 依子に焦りの色が見えた。

「あれは氷魔法じゃないと止められなさそうね。

 流石に、飛行をやめないと氷魔法は無理よ……」

 瑞月はそれを聞いて、ゆっくりと杖の上でバランスよく立ち上がった。

「瑞月?」

「氷魔法、単純なものなら私も使える。行ってくる」

 そして杖を強く蹴って、龍に飛び込んでいく。

 その衝撃で杖が大きく揺れ、依子は思わず進行を止めた。

「み、瑞月!?」

 制止も聞かず、魔法を込めた拳を振り上げる。

 飛び込んでくる瑞月に、龍は狙いを定めて火を噴くが、瑞月は集中は切らずに、身体を捻ってこれを躱す。

 そしてそのまま、いつものように拳を龍の眉間に叩きつけた。

 氷の魔法陣が凍てついていく音と共に大きく展開し、不意に消える。

 同時に、龍の眉間から氷が勢いよく根を生やし、龍が次の攻撃を放つ前に、その全身は凍りついた。

 氷を叩きつけた反動で、後ろに飛んでいった瑞月は、依子に拾われる。

「いきなり飛び出さないで。びっくりしたじゃない」

 困惑する依子に、瑞月は言葉少なに謝罪する。

「ごめん。それで、扉はどうする?」

「壊すわ!勿論」

 ニッコリと微笑んだ依子は、凍りついた龍を盾代わりにして回廊に降り立った。

 一緒に降り立った瑞月は周囲を警戒しつつ、依子を見守る。

 依子は箒代わりの杖をくるりと回し、先を扉に向ける。

「濁流、翻弄、閉じて、巡って、集え、我が手に。柱となりて、満ちて、砕け」

 言葉と共に光が生まれ、光から大量の水が凄まじい勢いだ噴き出した。

 水流がぶつかった扉はドリルのように削られていく。穴が簡単に開かないことから、相当に分厚いことが分かる。

 跳ね返った水飛沫は、依子と瑞月の立つ場所を避けるように左右に分かれ、暴れるように回廊を満たしていく。追ってきていた魔獣たちは押し流され、波に飲まれた木の葉のように散り散りになった。

 水流の勢いに瑞月が感心していると、徐々に削られていた扉にいよいよ穴が開いた。

 そう思った時には、扉全体にヒビが入り、音を立てて崩れていく。

 崩れた扉が水を押し出し、瑞月と依子の足元に緩やかに押し寄せた。


 壊れた扉を乗り越えると、見覚えのある男が立っていた。

「久しぶりね、ブラドリー」

 依子は油断なく杖を構える。

 変わらず飄々とした様子でブラドリーは構えている。

「ここまでお越しになるとは思っておりませんでしたので、おもてなしが不十分になってしまい、申し訳ありません。

 私の配下の者達は、歯応えが無かったようで」

「ここに来るまでにいた魔獣のことかしら。

 本当、扉を壊すついでにやられるなんて、ちょっと調教がなってないんじゃないかしら」

 煽る依子に対し、ブラドリーは本当に申し訳なさそうに眉を顰めた。

「本当に申し訳ありません。お詫びと言ってはなんですが、私の全力をお見せいたします。

 どうか、そちらで勘弁願えないでしょうか」

「どっちみち、そんな簡単に通してもらえるとは思ってないわ」

 ねぇ、と依子は瑞月を見つめた。

「あの男の後ろから、漂ってくる気配、感じる?」

 その気配を辿ってここまで来たのだ。間違えるはずもない。

「不知火くんね。混じって変な気配もあるけど。少なくとも不知火くんはこの奥にいる」

 以前に戦った敵が待ち構え、その先に目的の人がいる。突入までの僅かな時間の間にも、面白く、かつテンポよく私達の物語が進むように、精霊側で調整が行われたとみて間違いないだろう。

 不毛な行動を起こさず、最短で行動できるという意味では、精霊の誘導も今回ばかりは有り難かった。

 時雨の気配を感じ、心臓が大きく跳ねるのを感じた。

 一方、同時に漂ってくる異様な気配には、鳥肌が立つ。

 心を掻き乱す感覚の渦に、うずくまりたくなる気持ちを必死に抑える。

 心に凪を呼ぶように、大きく深呼吸し、回廊の奥をじっと見据える。

 立ち塞がるブラドリーは、穏やかに、しかし不敵に微笑んでいる。

「依子、こいつ、頼める?」

 瑞月の目的は、最短で時雨までたどり着くこと。

 ブラドリーは邪魔だ。

「ええ。私も、是非そうさせて頂きたいわ。周りも気にせず、彼と思いきり戦いたいの」

 中途半端な先の戦いに、依子も不完全燃焼だったのだろう。

 ギラギラと燃えているのが伝わってくる。

 恐らく、萌音への心配と不安とで溜まりに溜まったストレスを思いっきり発散したいという思いもあるだろう。一人で好きにさせるのが無難だ。

 怪我の心配は勿論ある。だけど、言葉を交わさずとも、依子も碧斗も、ここまで来る上で、怪我のリスクなど重々承知しているのがわかった。いつだって、自分が怪我をすることよりも、誰かのための行動を優先するのが、萌音を中心とした魔法青少年チームのやり方だった。

 そんな無謀な事を言えるのは今だけかもしれない。大人になっていく中で、自分の手の中で守るものが増えるにつれて、自分自身も大切にしなくてはいけなくなってくる。失うものが無いという強さは今だけだ。そして、その強さが、時雨を異界へと導いた。時雨は自分に何かあっても、周囲の人間にはそれほど迷惑はかからないだろうと勘違いをしている。少なくとも、瑞月にとっては迷惑でしかない。勝手に時雨自身を蔑ろにすることが許せなかった。

 時雨に思い知らせる必要がある。

 時雨がいなくなることで、どれほど瑞月が迷惑するか。

 瑞月がどんな思いで、ずっと時雨を見ていたのか。


「装填」

 その依子の一言で、瑞月は我に帰る。

 依子の杖はコンテンダーと呼ばれる単発式の大型拳銃に姿を変える。何故知っているかと言うと、中学時代でもここぞと言うときは度々使用しており、興味本位でそれはどんな銃かと尋ねたら、小一時間ほど熱烈に語られたからだ。とある映画の渋い悪役の男が使っていて、その拳銃の姿を見て恋に落ちたと言っていた。合法的に撃てるので、嬉しくって堪らないのだと拳銃を撫でながら語る姿に、若干恐怖を覚えたのが懐かしい。普段は分からないし、銃に変形させるといつもの魔法詠唱が使えなくなるので、滅多に使うことはない。しかし、ああ見えて依子は、いわゆるガンカタも得意なタイプだった。切り替えに時間はかかるものの、5人の中で最も幅広い戦闘スタイルを持っている。

 魔力で作った銃弾を左手で召喚し、コンテンダーに装填する。

「じゃあ、瑞月。告白の結果はちゃんと教えてね」

 この緊迫した状況でニヤニヤと笑う依子に、瑞月は顔を真っ赤にする。

「こんな時に、何言ってるの?集中してよ」

「今回、私と碧斗がついてきたのは、あなたを無事告白させるところまで連れていくためでしょうが。

 告白しなかったら、私達の苦労が水の泡よ」

「そんなこと、一言も言ってない!」

「まあまあ。じゃあ、いくわよ」

 まだ言いたいことがあるが、口をハクハクと動かすばかりで言葉にならない。

 話は終わりだと、依子はコンテンダーを構える。

 ご丁寧に、いや、お約束通り待ってくれていたブラドリーも、僅かに身体を動かし、両手を前へ突き出し、構えた。

「瑞月、行って」

 その静かだが強い言葉に、ハッと気がつく。

 依子とブラドリーは睨み合い、お互いの動きを牽制しあっている。

 

 ――進まなくちゃ。

 

 出せる最高速度でブラドリーをすり抜ける必要がある。

 瑞月は呼吸を整えると、クラウチングスタートの姿勢を取り、じっとブラドリーとその脇の空間を見つめる。

 ブラドリーの目が見開いた。

 片手をゆっくりと瑞月の方に向ける。牽制の魔法を放つのだろうか。その手が淡く輝き出した。

 しかし、それを気に留めることもなく、瑞月は走り出す。

 スタート地点で蹴り上げた地面は、抉れ、吹き飛ぶ。

 ブラドリーが攻撃する間もなく、瑞月はその横を駆け抜けていく。

 一瞬のうちに、瑞月が彼方、回廊の奥へと消えていった。

「驚きの速さですね」

 ブラドリーが姿の見えなくなった瑞月を追うように視線を動かし、唾を飲んだ。

「瑞月は、肉体強化に魔力を極振りしてるから。

 信じられるのは己の拳のみってね。もちろんそれに付与する魔法なんかも得意だけど」

 依子は嬉しそうに語る。

「なるほど。極めし者の動きですか。シンプルな強さ。憧れますね」

 そう言いつつ、ブラドリーは依子に向き直った。

「ですが、私はあなたの強さにも心惹かれています。

 今度こそ、最後まで踊り続けてください」

「望むところよ」

 依子の言葉が消え、一瞬の静寂が降りた。

 そして、次の瞬間、あたり一面に魔力の衝突音が響いた。

できるだけ毎日連載の予定です。

20話ちょっとで完結します。

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