07 任務
子供たちにちゃんとお別れのご挨拶出来なかったのは心残りですが、
すぐに村を出た俺たちは、国境の街ヴラウペン目指してまっしぐら。
それで、これほどまでに急ぐ理由とは?
「エルシニア王都内で任務に当たっている特務司法官からの救援要請への対応」
「内容は、特務任務協力者の国外脱出と目的地到着までの随伴護衛」
「それが、今回の私たちの任務です」
国外脱出ですか……
ガルグリスタ、もとい、エルシニア国内は、それほどまでに緊迫した状態だと。
「確かに、国名の無体な変更など、国民の王家への不満はかつて無いほどの高まりを見せているそうです」
「ただ、エルシニアの民は争い事を好まない温和な気質」
「荒事では無く、劇場で上演される風刺劇などの文化的手法での王家批判で盛り上がっているのだとか」
はて、さほど緊急性のなさげな状態なのでは。
「救助対象者は、あの国での潜入特務司法官の活動を長年に亘り支援していただいた召喚者さん」
「その方にお孫さんがお生まれになるそうで、是非とも誕生の場に立ち会っていただきたいという、お世話になった司法官一同からの感謝の依頼」
「緊急性と言うよりは、人の縁を紡ぐ任務、でしょうか」
なるほど、司法官の皆さんにとっては、何としても成功させたい重要任務、ということですね。
ところで、お孫さんということは、その召喚者さんは高齢な方なのですか?
「……」
はて、マーリエラさんが、これまで見たことのないような表情を……
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いろいろ伺いましたが、聞けば聞くほど波瀾万丈してるのですよ、その召喚者さん。
ハルシェリカ女王の先代か先先代かは分かりかねますが、エルサニアで召喚された召喚者さん。
固有スキルで見切りをつけられ『低職処分』で城を出て、商隊キャラバンの一員として世界を巡る旅に。
程なく、キャラバンの商隊長の娘さんとねんごろしちゃって、めでたくも出来ちゃった婚。
生まれてくる子供のためと、キャラバンを抜けて独立することを夫婦で決意。
お父さんである商隊長に掛けあって、その時キャラバンが立ち寄っていたガルグリスタ王都に店を構えることに。
ふむ、当時のガルグリスタ王家はまともだったのかな。
ガルグリスタ王都での結婚生活は順風満帆。
召喚者視点のアイデア出しをする夫、
それを巧みに商売に活かす商才溢れる妻、
息ぴったりなふたりのお店は大繁盛。
いつしか、ガルグリスタ王都でも指折りの商会に。
そんなふたりに育てられすくすく育った娘さんも、やがて独立。
ふたりの才能を見事に受け継いだ娘さんは、旅商人として幌馬車行商の旅へ。
ガルグリスタ王都内で有力商人としての地位を得た召喚者さん。
エルサニアの特務司法官からの極秘の協力要請を、両国のためならと二つ返事で了承。
以降は、エルサニアから派遣されてくる潜入特務司法官の世話役として尽力。
そして今回、離れて暮らす娘さんの出産に立ち会えるよう、俺たちがエスコートってわけですね。
あれ? 娘さんのお母さんも、今回一緒に国外脱出ですか?
「いいえ、奥様はすでに脱出済みで、娘さんの側で出産準備なさってるそうですよ」
「召喚者である旦那様が一緒に国外脱出出来なかったのは、現在エルシニア国境に張られている特殊な結界のせいなのです」




