03 全力
出会った獲物は確実にあの世に送られるということで、
冥界送りの"ニルヴァーナ"
魔熊も恐れる身体能力と熟練猟師の手管を学習して裏をかく知能、
両方を兼ね備えた"チート"
異常なほどの隠密性とハンパ無い敏捷性を活かした、
急所狙いの一撃必殺"アサシン"
見た目は丸々ころりとした、
愛らしい"大うさぎ"
誰が呼んだか、"ニルヴァーナ チート アサシン 大うさぎ"
誰が考えたのやら、通称"ニチアサ大うさぎ"
そんな最強魔うさぎにロックオンされて絶体絶命な俺たちですが、
アイツに見つかる前に木の上に逃げることができたのは、
マーリエラ先生の授業を真面目に聞いていたおかげ。
「魔うさぎ系最強種のニチアサ大うさぎは、好戦的ではありますが、無差別・無分別ではありません」
「人と闘うことの危険性をしっかりと認識しており、警告のためにわざと人目につくようマーキングを見せつけるのです」
「そのマーキングも、ただの爪痕ではなく、自身の似姿を彫り込んだもの」
「もし森の木の目に付く場所にうさぎのシルエットが刻み込まれていたら、走って逃げようとはせず、可能な限り高い場所に木登りしてください」
「そして見つからないよう、3日間は木の上でじっとしていること」
「ニチアサ大うさぎのテリトリー巡回サイクルの3日間で姿を見せなければ、何らかの理由で他の場所へとテリトリーを移したと判断出来ますので、逃げるのはそれまで待ってください」
「もし見つかれば逃げるという選択肢は無く、闘いを覚悟しなくてはなりません」
「私も……正直勝てるかどうか……」
あの授業、とても参考になりましたよ、マーリエラ先生。
ただ、3日間の潜伏を待てなかったのが俺のミス。
スーちゃんの『睡眠結界』での奇襲が通じなかった時点で、
俺なりに、覚悟、決めました。
スーちゃんにお願い。
マジックバッグはここに置いていくから、
もし俺の悪あがきが通じなかったら、遺品としてマーリエラさんたちに渡してね。
確か、狩った獲物は運びやすい大きさになるまでバラバラにして全部巣穴に持っていくはずだから、
ここには遺骨も残らないんだよな。
……それじゃ、行ってくるね。
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スーちゃんとバッグは木の上に残して、
丈夫なツタを使ってゆっくり慎重に降りる。
地面に近付くにつれて、間合いを確認するかのように距離を取るニチアサ大うさぎ。
スゲェな、コイツ。
俺みたいなヨワヨワ野郎が相手でも、
油断せず慢心せず、全力で狩る姿勢を崩さず。
その行動、まさに森の最強狩人。
見た目は、モフ感のカタマリのうさぎさんだけど、
あの射るような深紅の眼、最強種は伊達じゃ無いって感じですよ。
ふーっ
それじゃ、久々にいきますか。
"スイッチ"、入れます……