16 お務め
こちらの事情は全てお話ししますので、
判断はジョウトさんご自身に委ねます。
ということで、説得では無く、あくまで事情説明。
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ぐるぐる巻きを解かれた『渇魂刀』と相談しながら、
俺たちの話しを神妙なお顔で聞いていたジョウトさん。
「双方の言い分、どちらも間違ってはいないような……」
そうですね、起きている現実はひとつですので、
後はそれぞれの受け取り方次第でしょう。
結論を出すのは、ご自分の眼で確かめてからでも遅くは無いかと。
「この問題、しばらく部外者のままでいるのは卑怯、でしょうか」
「もう少し、考える時間が欲しいのです……」
はい、ごゆっくり、どうぞ。
ただ、巡回司法省にはすでに今回の件を伝えておりますので、
入国手続きやら何やら、一度スッキリさせた方がよろしいかと。
事情が事情ですから不当な拘束はされないと思いますし。
もしお望みなら、司法省経由で東方に帰還することも。
「ご配慮、痛み入ります」
「実は、ノアルさんには折り入ってお願いしたい事が……」
はい、果たし合い以外でしたら何なりと。
「その……『渇魂刀』がノアルさんのアレを大層気に入ったそうで」
「出来れば、時々で良いので……」
えーと、アレってもしや、"魂"……
「いえ、主食としてがっつり吸うとかでは無く、スイーツ的な感じでほんの少し嗜むだけでも……」
……返事は、家族と相談してからでもよろしいですかね。
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ジョウトさんは諸々の手続きのため、巡回司法省エルサニア王都本部に向かうことに。
付き添いの司法官さん、何となく見覚えがある気がしましたが、
例のキルヴァニア事件の時に、隠れ家でお世話になった覆面特務司法官さんですね。
今回は覆面無しの素顔での任務です。
素敵な女性なのですが、
何となく、脇差っぽい方だな、なんて失礼なことを考えちゃいました。
鋭さと静謐さを兼ね備えた日本刀のような雰囲気、
なのに、全体的に受ける印象がちっちゃ可愛い方面全振り。
つまりは、脇差。
いや、あの時はお顔を見れなかったので、見覚えがあると言うと語弊があるかも。
正確には、気配や雰囲気などの印象を覚えていたのでしょうね。
「それは、あり得ないほどに凄いことなのですよ」
はて、どういうことですか、マーリエラさん。
「あの方の卓越した隠密・隠蔽能力は、間違い無く現役司法官最強」
「もし、気配や雰囲気で覚えられていたと知ったら……」
知ったら?
「隠密能力向上のための特訓のお相手として拘束される、かも……」
おっと、あんな可愛らしい人のお相手はやぶさかでは無いのですが、
俺のキャパシティは、現状でいっぱいいっぱいですよ。
「旦那様としてですか、それとも冒険者として?」
あー、久しぶりですね、そのジト目。
いつも言ってますが、俺はマーリエラさんひと筋ですから。
『イチャイチャもいいけど、司法官さんたちから呼び出しだよ』
イチャイチャしてませんってば。
あえて言うなら、これぞ夫の務め。
『はいはい、おじさまもちゃんと夫の務めを果たしてよね』
『お務めを頑張ったモリさん一家では、赤ちゃん産まれたって』
……マジか!




