13 保留
痛ぇ……
刀傷って、斬られた瞬間ヒヤッとするなんて聞くけどさ、
俺、"スイッチ"入れてたから、そういうの体感出来なかったし。
今は、ただただ痛いだけ……
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男との立ち合いは一瞬だったそうです。
ニチアサ大うさぎの時のように手の甲で捌きながら、
懐に飛び込もうとした俺。
刀身を手の甲で弾いた瞬間、脱力したように体勢が崩れて、
無様に地面に転がったそうで。
追い打ちしようとした男が俺を見失ったのは、
地面を這うように移動した俺が、
あまりにも人間離れした動きと素早さだったから。
『"G"みたいに地面をカサカサ這ってた!』
ちょっと、アンチさんっ。
言うに事欠いて"G"は無いでしょっ。
野獣のようにとか、ケダモノのようにとか。
『だって、人間も四足獣も、あんなに低い姿勢であんな風に動けるはずないって、マーリエラさんも言ってた』
酷いよ、マーリエラさんまで。
確かに、夜の寝技の方なら腕に覚えあり、ですが。
『……』
スーちゃんまで……
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男を背後から拘束した俺が、
締め落としたのはその後すぐ。
それから、意識を失っている野郎ふたりをみんなで介抱してくれたそうです。
ありがとね、みんな。
でも、目を覚ましていないとはいえ、あの男を縛っていないのは?
「締め落とされる直前、刀を落とした瞬間に、明らかに気配が変わりました」
「まるで憑き物が落ちたかのように」
なるほど、憑き物。
あの刀、マジで妖刀の類いだったってことですな。
とりあえず、警戒は怠らないでね、スライムペアさんたち。
ってか、いつもみたいに上手いこと手の甲でいなしたはずなのに、
何でパックリ斬れてんだろ。
妖刀、恐るべし……
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その後は、何事も無くオーバンの街に到着。
モリさんの奥様たちが滞在していたのは、
潜入特務司法官御用達の、あの秘密の隠れ家。
今は、モリさんご家族と司法省医療班が出産準備万端です。
家の周囲では、今回の任務の依頼主である特務司法官の皆さんが、目立たぬように警護しているそうです。
モリさんを無事に送り届けた俺たちは、未だ目覚めぬ素浪人を連れて、街から離れた林の中で野営中。
この男の件が片付くまでは、孤児院にも顔を出せません。
司法省の方で男を引き取りたいと言われたけど、
うちの乙女たちがどうしても気になるそうで。
で、男から事情を聞くまではということで、処分保留中。
例の妖刀は、直接触っちゃ不味かろうと、ボロ布ぐるぐる巻きの刑。
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「傷が……」
あー、男の勲章ってことで。
こんな傷、マーリエラさんには似合わないですから。
でも、司法省から支給されたポーションってかなりお高いのだったはずですよね。
アレでも傷跡が消えないなんて、流石は妖刀。
「まことに申し訳ない……」
おっと、お目覚めですか。




