12 接敵
悠然と現れた男は、
えーと、素浪人?
着崩したアレは、どう見ても和装の着流し。
この大陸の東方は東洋風文化圏だそうだし、
エルサニアでも、探せば売ってるのかな。
ちょっと欲しいかも。
「大人しく投降してもらえると、助かる」
そっちがその腰の物を置いて話し合いに応じてくれれば、
考えなくもない、かな。
「これは……悪いが手放せん」
「申し訳無いが、押し通らせていただく」
……マーリエラさん、マジで気を付けて。
---
立ち合いは数度、交差は一瞬。
マーリエラさんが超速で繰り出す双刀を余裕でいなす技前。
マジ只者じゃなかったよ、あの素浪人。
驚くべきは、あの刀。
明らかに日本刀、
それも、タダモノじゃない業物。
ヒャッハー野郎どもの武装なんて、打ち合った瞬間にバラバラに出来るほどの切れ味を誇るマーリエラさんのナイフ。
しかし、お互い刃こぼれひとつなさげ。
体術の方も同等以上、かも。
「手練れ……です……」
マーリエラさんが息を切らせるなんて、初めてですね。
下がってください、俺が出ます。
幌馬車にも、もっと下がるよう伝えてください。
「ご武運を……」
男は、必要以上に前に出ないで、
こちらの間合いを測るようにじっと待ってる。
なんだろう、これ。
殺気、じゃ無く、
闘気、でも無い。
男からでは無く、
刀の方から伝わってくる異様な気配。
あえて言うなら、飢餓感、
っていうか食欲?
「銘は『渇魂刀』」
「斬られた者は魂を削がれる」
「出来れば、斬らせないで欲しい……」
……なるほど、訳ありですか。
とはいうものの、当然こっちも引けないわけで。
それでは、"スイッチ"を……




